壁の言の葉 

unlucky hero your key

Border LINE

 もしも若くして子供を作っておったとしたらこんな息子だったろうと思えるほど年の差のある後輩に誘われるままLINEを登録す。
 どうだ、この今更感は。
 相次ぐ現場の雨天中止による減収対策として彼は勤務前に流行りのウーバーでダブルワークに勤しんでおり、
 どうやらそこでの紹介制度を利用するのにLINEが必要らしいのであった。
 要は、最初の何勤務かをあたしがこなせば紹介料の何万円だかがもらえるという。
 その取り分の山分けが狙いらしい。
 熱い口調で説明をする彼のまなこは曇りもなく輝いていた。
 若者のポジティヴに水を差さぬよう、そこは付き合っとこうと思った次第。
 面目ない。
 たぶんウーバーはやらない。
 そして紹介料を山分けしたらどうせそれきりになることだろう、彼は。
 そしてまあ、ブログにしろツイッターにしろインスタグラムにしろ、なんにしろ、この手のを使い始めたからといって何かが変わったり広がったりすることはないことを経験で知っている。


 昭和の終わり、バンド仲間で自分だけが電話がなかった。
 四畳半、風呂なしトイレ共同の寮にはピンクの電話が一台だけあって、外からかけると気付いた住人のだれかが受け継いでくれた。
 それに遠慮して闇生には連絡し辛いと仲間はいふ。
 その後、風呂トイレ付のアパートに引っ越して初めて自宅に電話を引いた。
 留守番電話を導入した。
 留守の場合はメッセージを残すよううながすメッセージは自録りでコメントをセットするのが流行りで。
 レニー・クラビッツの曲をBGMに何度も録りなおしてあたしもつくったな。
 けど、誰からも連絡はなかった。
 それからPCを持ちメールアドレスを周囲に周知した。
 ケータイを持った。
 誰からも連絡はなかった。
 ここまでくると自分の需要を厭でも思い知らされる。 
 人としての面白みの問題なのだ。
 あたくしという人間に面白みなどない。
 今度はLINEだと?
 そんなツールであたしがあたし以上の何者かになれるわけはない。


 盆明けに、職場の仲間でつるんでのバーベキュー大会をするという。
 先輩からお誘いがあった。
 ありがたし。
 けど、あたしにまで声をかけてくださったのは社交辞令だと思ふ。
 なにより、あたしには似合わない。そんな賑わいは。
 てか、現場でさんざん疲弊させられている人間関係に、休暇中にまで付き合うなんてのどーなのよ。
 めんどくさ。
 なので、その日を狙って久方ぶりに甲州街道歩きを再開しようかと思ふのだ。
 独り歩め。
 林の中のサイのごとくに。
 峠越えをまえにして中断しておったのであーる。




 彼らの宴の真っ最中を見計らって『峠なう』とでも送信したろか。
 だれかが気づけば、嗚呼あいつらしい、とでも嗤ってくれるだろうか。
 そういう関わり方をするのが一人くらいいても悪くはないと思ふのだが。





 闇生