お盆の三日間、現場のお泊り待機を担当してみた。
社員さんたちは家族持ちですもの。そこは進み出ないと、と。
かっこつけてみた次第。
これまでの半生でも毎度のことである。
で、
結局はそのうちそれが当然のことだとされる。そこがつまらんの。
謙遜は所詮ひとりよがりなのか。
まあいいやと。どこ吹く風でいる。
ところで、
日々ただ漠然と写真を撮っている。
酷暑のまっただなかにいるせいで、この暑さの猛威も当然写り込んでいるだろうと思いがちである。あたしなんかは。
後年、それを見なおしたところで、どれだけ暑さをとらえられているのか。
いや、知人にすら伝わらない。
いやなに、そんなとらえどころのない事ごとまで掴み、感じさせるプロの写真家というのは大したもんだと。あらためて。
喜怒哀楽はむろんのこと、それらと森羅万象の化学変化が生む情感のようなものまでね。
そうそう。
そこで思い出した。
黒澤明が、その助監督時代のこと。師匠である山本嘉次郎監督との思い出を語ったなかで、遊びのなかでみんなで脚本の練習をしたとのべていた。
たとえば『暑い』というシチュエーションを考え合おうと。
で一番暑そうなのが勝ち、とする。
蝉の鳴きしきる真夏。西日の当る狭い部屋で炬燵を囲み、どてらを着こんで鍋をしている。等々。
遊びが練習になっていた、というやつですな。
黒澤の作品で夏の暑さでいうと後に刑事モノのお手本となった『野良犬』だろう。
あの暑さの表現が効いているからこそ、クーラーの無い満員電車の混雑が活きるのだし、その煩わしさあってこそ主人公は拳銃を掏られてしまうのだし。ひいてはその拳銃を探してさまよう徒労が引き立つわけで。
それからすべてのシーンが美術品のような奇跡となった『羅生門』。
あれもまた暑さが人を狂わせる重要な背景になっている。
そして、そのどれもが、おそらくは真夏に撮られたのではないということ。
『七人の侍』の有名な土砂降りの合戦シーンは、雪解けの泥のなかでの撮影だというからおどろく。
たしかに、差配する勘兵衛のアップ*1では、白い息が見られた。
彼には「夏の暑さを撮るには、真冬に撮ったほうがいい」という発言もあるくらいだ。
つまり、そのほうが夏の暑さとはどうだったかということを客観的に考えられるという。
ちなみにその線で考えてみると、芸人の貧乏話がおもしろいのは、その困難が過去のものとなっているからで。渦中にあっては存外、不幸の度合いに鈍感になっているからではないのか。
いや麻痺させずにはおられないのか。
ドーパミンのようなもので。
いや、違うな。
違う。
距離が生まれたせいで、冷静に、客観的に演出がほどこせるのだ。
良く言えばひとつの物語としてまとめようと、デコレーションできる。
悪く言えば予定調和とも言えるかもしれない。
事実が、何かしらの解釈を欲しがると。
貧乏自慢しかり。
病歴自慢しかり。
失恋歴しかり。
たとえば、戦争についてもそうだ。
その真っただ中に書かれたものは、至極リアリティに富んでいて誤解を恐れずに言えば「おもしろい」。
大多数が開戦の一報に開放感を感じたという発言は、少なくない。
ABCD包囲網とハルノートという一国まるごと束縛されたなかでの、せめて一矢報いようとする開戦だもの。
たとえば高村光太郎だってそのときの高揚を『鮮明な冬』という詩にしているし。
たしか安吾も、それを文章にしていたはず。
それが敗戦して、ころっと解釈を変えた。
結果からふりかえり、当初の理想をすりかえて、記憶を演出した。
別れるや、途端に過去を全否定する元恋人や元夫婦のような。
まだ開戦の一報の時点で、それを暗雲垂れこめる不吉として回想しようとした。
よくあるでしょ。世界陸上でも、W杯でも、応援する対象が負けるやいなや「やっぱな。そうなると思ってたんだ俺は」「だから言ったんだよ」て訳知り顔でのたまう輩。
「騙されてたんだぜ〜♪*2」
妹尾河童の『少年H』が駄作である根拠は、まさにそれ。
その手の結果論を当時の声として書いているからである。
それでも映画にしちゃうんだから、すごいよね。商魂てのは。
宮崎駿の新作。まだ観ていないのだが、煙草があたりまえの時代を描いているのに、その扱いを問題視している人たちがいるという。
これ。同じ匂いを感じずにはおられないのだな。
世も末だと思ふ。
ビートルズの名作『アビーロード』のジャケ写からタバコを修正・削除しようとする動きもかつてあったが。
なるほど病室や、学校の先生が教室で煙草を吸うなんて、いまでは問題になるのだろう。
けれど、ちょっと昔には当たり前のことだった。
初期のRCサクセションの代表作『ぼくのすきな先生』で清志郎は歌っているよ。「煙草〜吸いな〜がーら♪」て。
ああいうの発禁になるんですかね。将来的に。
『トランジスタラジオ』なんて授業をサボって屋上でラジオ聴きながら煙草ふかしてる学生の歌だよ。
ライヴじゃ大合唱よ。
当時から学生の喫煙はペケだったはずだけれどね。
二十代の半ばで煙草をやめたあたしですら思ふ。日本ロック史に残る重要な曲のひとつだと。
とまあ、
際限なく話がそれていく。
いや、ふくらんでいくと捉えていただけるとうれぴー。
J-wave。
細野晴臣の『終わりの季節』の女性ボーカルでカバーしたのがかかっていたと思ったら、ひきつづき彼のサントラ名作『銀河鉄道の夜』が流れた。
やっぱいいね。未明のJ-waveの選曲者。
☾☀闇生☆☽