「仕事はありますか」
唐突にそう声をかけられた。
昼下がりの公園。
藤蔓の庇をかりたベンチ。
子どもらがはしゃぐ光景をながめつつ手弁当を平らげたあたしが、さあそろそろしょんべんでもして持ち場にもどろうかと腰を上げかけたときだ。
声にふり向くと、となりのベンチに初老の男性がいる。
すべり台のあたりでもつれあって笑う親子連れに目を細めつつ、おだやかに彼はこう続ける。
「いや、あのう、ケービの仕事は。……ありますか。どうですか」
ふと我に帰り身だしなみを確かめると、なるほど、制服の上からはおったジャンパーの前が、はだけている。
ああ。腹がふくれてベルトをゆるめたとき、か。
見知らぬ人だし、相手にするかしまいか、しどろもどろになったあたしはどうにか「はあ。まあ」と口ごもるのだが、
「ありますか」と追い打ちである。容赦がない。
あきらめて「同僚のなかでは、けっこうコンスタントに仕事を頂いているほうです」と答えると。
「ああ。それはよかった」
男性はさながら自分のことのようにほくそ笑んで、膝のワンカップに口をつけた。
なんでも、若いころは鳶をしていたという。
昔は仕事がたくさんあって。
給料も良くて。
くわえて終身雇用制がゆるぎなかったから、人生に計画性がもてた。
とどのつまりが夢に具体性がもてた。
いや、たとえ漠然としていたとしても、なんとかなった。
そこへいくとこれからの若い人たちはかわいそうだ。刹那的に生きていくほかないだろうに、と目の前の子どもたちを見つめる。
結局、悪いのはあいつらだな。
と前政権を罵り、
現政権をさらりと嗤って、
またワンカップを傾けた。
して、ふうと深く息を突くと、きっぱり。
「昔の政治家のほうが、肝っ玉は座っていました」ときもち空を見て、まるで戦友を思い起こすように言いきる。
あたしが調子に乗ってそれに同意すると、そりゃあそうですとも。そうですも。
確かめるように頷いて、善事も悪事も腹を据えなくては大きいことができません。
そして、はじめてこちらと目を合わせて子どものようにニコっと笑うと、溜め息をつくようにこう呟くのだった。
いったい誰の顔色をうかがっての為政なのだか……。
昼休みの時間を終えて、現場にもどると職長さんのひとりが求人誌を広げている。
いま携わっている現場がまもなく工事を完成させる。が、そのあとの仕事の予定が無いのだという。
せめてもの間つなぎにでもとアルバイトを探しているのだが、試みにあたしらケービの職長にその待遇を聞くや、あまりの可憐さにげんなりされておった。
ともかく、
今日も仕事を、
先を読み、着実に、
ひとつずつ卒なくクリアしていくのみ。
☾☀闇生☆☽
いいひと時を、さんくす。