その男。最初は、ただ掻いているのだと思った。
おケツを。
だぶだぶのズボンの上から。
商品の、あられもない写真に気を取られていると、男子たるもの、ついそんな休日のおっさんモードにもなりがちで。
けれど、あまりにその動きがせわしいので、気になった。
で、注意して観察してみた。
と、掻いていないときも常に左右どちらかの手で、そのぉ、なんだ、おケツの的のあたりを押さえているのだな。彼は。
てか、ジャージ越しに摑んでいるの。何かを。
でもって、ときに激しく掻くの。
掻くのよ。
いや、違うな。
なんと言ったらいいのか。
普通、『掻く』という動作は、皮膚と平行に行われるもので。
材木に鉋(カンナ)をかけるようにだ。
けれど、その男のは、どうみても皮膚に垂直になされているわけで。
木槌で鑿(ノミ)を打ちこんでいる。
谷間をめがけ、ノックするがごとく。
強く、弱く。
大きく、そしてときに小刻みに。
クレッシェンド、デクレッシェンド。
あきらかに、なにかただならぬものをそこに装着したうえで、来店しているのだった。
さて、どうしよう。
いわずもがな、あたしゃエロDVD屋でござる。
その店内でのことなのだ。
だから、合法的変態さんならば、歓迎すべき立場ではある。
んが、
うん、
これがエスカレートして、はみだしちゃうとなると、悲しいことになるわけで。
はっきり言おう。
商品や店を汚されるのは勘弁なのである。ざっつ・おーる。
だもんだから自然と警戒モードになりますわな。
さりげなく掃除をよそおって近くに行ったりして。
そうすりゃノックをやめてくれるだろうと。
しかし、あまかったのだ。
掘削兵器が落ちぬようにと、前から待ちなおしてみたり、ズボンの中はいろいろと忙しいようで。
ばかりか、
あろうことか、今度はカウンターにケツを向けておっぱじめた。
これを見よ。
そう言っているかのようにだ。
どうしたらいい。
頑見したろか。
思う壺か。
見られたくて来たのかもしれんぞ。この俺に。
来たのか。ついに。
目が合ったらどうする。
「どうもっ」
ちがうな。
「やってる?」
やってる、やってるぅ。
にしては、オーラに緊張感がない。
明け方のゴミ集積所ではちあわせた近所のあんちゃんぽい風情である。
「おはよっす」
結局は、事なきを得た。
帰り際、低い棚に並べてある雑誌『お尻倶楽部』の見本を手に取られた。
そのはずみで抜け落ちそうになるのをこらえつつ、かつ手でおさえ、膝をぴたりとあわせて前屈されたときには、見張っているこちらのほうが手に汗握る思いをしたものである。
ふう。
あのあと、どこへ行ったのか。
よその店でも、ああなのか。
いやいや、そもそも路上ではどうしているのだろう。
あの掘削行為は目立ちすぎである。
不審尋問をうけたら、ねえ。
すっかり、秋になりましたね。
☾☀闇生☆☽