壁の言の葉

unlucky hero your key


 土曜に仕事が入らず、
 ならば二連休かとぼんやりと一日を潰してしまった。
 明日こそはどこかへ出かけようとしていたところ、夜になって出動を要請される。
 日曜の日勤が大欠員状態だという。
 二択をゆるされたが、どちらも遠い。
 ひとつがK山さんのついている都心、お役所内での現場。
 もうひとつが超ベテランHさんがご指名を受けている現場、都下の某巨大工場である。
 そこは工場のラインが止まっている土日にしか工事ができないことが多く。
 これまでの経験からいえば早くあがれることが多かった。
 一方、K山さんのお役所現場は未知だ。
 ただただ福々しいK山さんの人徳だけが魅力である。
 欠員はよほどの量らしい。
 要請してきた内勤者は交通費を個人的に出すとまで申し出てくれる。
 そこまでさせるわけにもいかないが。
 頭はすでに休日モードではあったが、渋々請けることにした。


 都下の工場を選ぶ。


 自転車で二時間。
 多摩川沿いに上流をひたすら目指すルートである。
 しかし翌日からまた現場がある、というのが気を重くさせていて、直前になって電車でゆくことにした。
 むろん内勤者の自腹による交通費など思慮の外である。
 往復で1000円近い出費はこの閑散期には痛いが、仕事をもらえるだけありがたいとする。


 工事は、工場敷地内でのレッカーによる荷揚げ作業。
 屋根の老朽化した部分の取り替えらしい。
 あたらしい資材をあげて、残材を下ろして終了。
 なんてったって敷地内。それもラインが止まっているので通行もほとんどなく、のんびりとしたものだった。
 レッカーを見送って14時下番。
 超ベテランHさんはそのあと、同じ敷地内の別の作業に引っ張られていった。
 ご指名現場であるだけに、彼が残るのがスジなのである。


 休憩所での食事中に工場付きのネコたちに囲まれる。
 警備の制服を着ている以上、餌付けはできない。
 カップルらしきグレーの2匹がひどく汚れていて、ところどころ皮膚も病気にかかっているのが気になった。
 ふだん工員たちは可愛がってやっているのだろうか。
 メスの方はお腹に赤ちゃんがいるらしく。
 旦那があらわれるや、かけよって首根っこを抱きしめてはなさない。
 額をこすりつけてさんざんに甘えるのだが、オスの野郎つれないもので。
 あたしが餌を与えないと知ると、ぷいとどこかへ去ってしまった。




 写真はあとから表れた毛並みのいいやつ。
 見てくれに貧富の格差があるのは、人気の違いなのだろうか。
 



 ☾☀闇生☆☽