壁の言の葉

unlucky hero your key


 スポーツ用品店の駐車場警備。
 ゲロ吐くかと思うほどの、寒さ。
 近くにあたたまれる休憩場所もなく、
 控室の事務室は手狭で居づらくて、
 コンビニすら遠い。
 持参した握り飯を冷えたまま、川辺でいただく。
 切り株のデザインのコンクリートのベンチ。
 休憩に集中できない。
 本も読めない。
 ぷるぷるしてる。
 声を出して誘導しているほうがまた気がまぎれる、と持ち場に戻った。
 ドライバーのなにげない手会釈にちびっとあったまり、
 心無い無愛想ぶりに、どっと冷える。
 仕方なく、笑う。
 笑うしかない。
 そんなわけはない、と歌をくちずさむ。
 吉田美奈子
 scenario。恨み節。
 屈伸運動をする。
 足踏みする。
 口がこごえて「ありがとうございました」を、噛む。
 「お気をつけて」を「おき、おお、ききけ」と噛んでいるうちに車が去っていく。
 くちずさもうとした歌のメロディが出てこない。
 笑う。
 へんな歩き方してみる。
 「ありがとうございました」のイントネーションをかえてみる。
 やっぱり噛んでしまって、凹む。
 星が出ている。
 いらっしゃいませ、はいまのところまだ噛んでいない。
 ガラス越しに店員さんたちの談笑が見える。
 立川談笑を連想する。
 顔しかしらない。
 古典を現代版に改作しているらしい。
 そこに「なるほど」の笑いは生まれても、知的好奇心の笑いはどこへ行くのか。
 ガードマンの知ったことではない。
 犬の散歩に出ていた隣人さんが帰ってくる。
 点滅する誘導等に柴犬が鼻を寄せてきて、つかのま笑いあう。
 息の白さを確かめる。
 顔面体操をしかけて、子供に見られていることに気づく。
 仕方なく笑う。
 駆け去っていく。
 ここのクロネコのドライバーはいつも不機嫌。
 転回を手伝って損した気になる。
 いつも同じ顔。死んでいる表情筋。
 笑う。
 笑え。
 店長さんが丁寧でやさしい。
 スタッフさんが労わりの笑みをくれる。
 繁盛するわけである。
 アスファルトは冷たい。
 かき氷食べた時みたいにずっときーんとしている。
 子供のころやっていた変な歩き方を思い出す。
 かったんかったん歩く。
 隣の中古車屋の店員たちはあたしを無視しつづけている。
 それでも去っていくお客の車には、見えなくなるまで歩道で頭を下げ続けている。
 頭をあげるやまた無表情にもどってあたしのまえを通り過ぎる。
 男はたぶんみんなイケメン。
 女はたぶんみんなかわいい。
 笑う。
 笑え。
 笑う。
 笑え。
 笑え笑え。
 笑々。
 行ったことがない。
 





 かったんかったんかったん。
 帰ったら何食べよう。


 




 ☾☀闇生☆☽