壁の言の葉

unlucky hero your key


 かねてから感心してはいたのね。
 いい声してるなあ、と。
 細く静かに指示をしているのに、はっきりと良く通るし。
 たとえるなら、そう、橋爪功のような。
 などと思っていたら、案の定、役者さんだった。
 同い年、かつケービの大先輩のことである。
 いわゆる『できる』お方なので尊敬してはいたのだ。
 んが、
 どこか近寄りがたく、無駄口をたたいてくれないために話す機会がなかったと。
 ましてやこっちは現場でいつも助けられてばかりで、なかなか力になれないという引け目もあって。
 それが、今ついている現場の昼食休憩で、やっとその機会に恵まれたのだった。
 煙たがられているとばかり思っていたので、おかげでちょっち胸がほぐれたわ。
 終日ネットで情報を漁ってしまったよ。


 ここへきてベテラン陣と現場をご一緒する機会に恵まれている。
 だもんでそれぞれの意外な一面を知ることができて、面白い。
 しっかしまあ、役者さんが多いのなあ。
 自分の劇団を持って演出まで手掛けているひともいるし。
 それとカメラマンも多い。
 職業だけでなく、趣味も多種多様だ。
 しかも多才な人が実に多くてね。
 某先輩曰く、長くケービをしている人たちはモノツクリが好きな人が多いとのこと。
 建築然り、
 道路工事然り、
 それらはモノツクリの精神のたまものだからして、詳しくなるにはやはりモノツクリ的な好奇心が不可欠なのだとか。
 つまり、
「これ、どうなってんだろう?」
「どうやって作ってんだろう?」
「どうやって出来たんだろう?」
 と構造に興味を抱くから自然と工程を覚えていく。
 とあるガンプラ好きの大先輩は、やはりそういう組立的な理屈で現場を把握して、それをあたしに説明してくれたっけ。
 実にわかりやすいのだわ。これが。




 にしても、
 みんなキャラが立ってるなあと、つくづく。
 んで、その個性を互いに面白がれる仲というのはあれだわな。
 なんつーか。良いのだよ。 




 んで、お前の得意は何なの?




 そう問われているようで、肩身が狭かった。
 何ひとつねーよ。あたしにゃよ。



 追記。
 素直にかっこいいと思うのだ。
 そういう生き方、というか。
 エロ屋の方でも、あってね。
 たとえば女優さん。
 AVのイベントで店を訪れては、自身の所属する劇団の公演のパンフを配布したりして。
 それもエロのない芝居よ。
 監督でもいる。
 AVとは別に自主制作映画を撮っている人が。
 損得勘定から外れたところに価値観を持ちつづけるというのは、人生の強みだろ。
 そりゃあ、売れるにこしたことはない。
 んが、
 仮に売れたからといって達成されるということでもないのだな。
 

 



 ☾☀闇生☆☽