「何ぷん待たせんだよ。待たせてお辞儀もしねえしよっ。ぜったい許さねえからなっ」
昨夜の夜勤で某有名タクシー会社のドライバーから通りすがりにくらった罵声。
渋滞もしていない、まことに順調な片公だっただけに、あたしゃ面喰ってしまった。
ただ、あえて難があったとすれば片交区間の真ん中に脇道用の信号があること。
その赤で待たされることがある。
それが20秒ほど。
それと規制の反対車線にバス停があって、その乗客の乗り降りの際に待つことくらいかな。
断言するが、それでも『何ぷん』というほど待った車は朝までかけて一台も無かったはず。
1分も待たせなかった。
まことに順調な片交であった。
彼は、あたしが停止させた車列の先頭。
お辞儀に関しては、必ずするようにしているのだが、うっかりするのを忘れていたのだろうか。
停止の際は、これはもう必ずしている。
癖になっている。
体に染みついてる。
新人の研修でならう基本動作でも敬礼するようになっている。
実際の現場なら会釈だ。危険だから接近車両から目線を外すなと教育されているのだが、している。
んで、発進してもらうときにも、する。あたしはね。
しない人もいる。
する余裕のないタイミングもあるので。
お辞儀する暇があったら一秒でも早く流せ、ということで。
なのでどうぞの合図のあとにペコリ、である。あたしの場合。
まあ、いい。
前にも書いたが、そんなテンションで客を拾ったとして、どうなんだろう。
客商売として。
「ゆるさねえからな」
と言われたところで、あまりに突拍子もないことだったのでフリーズしてしまったよ。
謝るも何もない。
無線で仲間にそれを報告すると、全員が口をそろえて「タクシーも不況なんだね」と応えてくれた。
まずしいんだね、と。
いろんな意味で。
連休前だしね。
客足、激減だろうしね。
ましてやあんな不機嫌な顔して、ごろ寝でテレビでもみるように斜めにもたれて運転してては、来る客も来なかろう。
昔はタクシードライバーっていうとかっこよくてね。
プライドを持って接客してた商売だったんだけどねえ。
どんどん質が落ちてくねえ。
と老ガードマンがぽつりとつぶやいた。
いまや失業者がまっさきに「タクシーでもやって食いつなぐか」てなレベルになってしまった。
だいたい稼いでる空車タクシーは、停車したすきに伝票を書こうとするから、そんなあわてふためいて運転してないよ。
急いだからって客が来るわけでなし。
たまたまつかまった信号で客を拾うことだって珍しくないでしょ。
嫌な客をおろした直後だったのかな。
負は、こうして連鎖するのだ。
させまい。
させまい。
深呼吸。
今夜も夜勤す。
おてやわらかに。
☾☀闇生☆☽