無事、自分の派遣先の担当部門の作業が終了した。
 現場からの撤退も完了し、自分もこれにて派遣を解かれるので、ささやかながらお別れの飲み会とあいなった。
 串焼き屋へと繰り出したその陣容はといえば、上位請けと組側それぞれの担当さんを入れてのフォーマンセルである。


「おつかれ〜」


 の乾杯もつつましく、前回の忘年会のように翌日にまで引きずるような飲み方はしまいと、ペースを堅守した次第でござった。
 いやあ、あれはね、
 チューハイに使った焼酎が甲種の安物(要するに原材料も定かでない大型ペットボトルで売っているような)だったのではと、睨んでいるのだが……。
 なんつったって酔い方が、単なる泥酔でのそれではなかったのよ。
 翌日も不思議な揺れ方をしていた。
 初めてだ。あの揺れは。
 だもんで今回はペース配分もレース展開もあらかじめ長距離走となるのを踏まえたのであーる。
 たらふく串焼きを頂いて、
 飲んで、
 笑って、
 居ない人の悪口言って、
 仕事上の武勇伝を拝聴して、
 そこそこにあったまった流れで隣のスナックへとなだれ込むおっさんフォーであったが……。
 あたしゃ基本的にひとりだもので、原則的に外では飲まないの。
 んで、そういうお店への興味も、通う経済力も拙いの。
 だもんで、この度が人生で確か二度目のスナック体験となったのであーる。
 となれば、当然こういうところはカラオケとかいうコミュニケーション・ツールが付き物なわけで。
 まったくもってそこがメンドーなわけで。
 困ったことに「歌わないのはずるい」的な、平等主義にもとづく謎の同調圧力が、かわしてもかわしても容赦なくもたらされるわけで。
 それはあれだ、露天風呂でひとりだけパンツを脱がないでいる無粋への、多数派からの批難なわけで。


 まあいいや。
 明日も休みなのだし。


 と観念。
 開き直ったのであーる。
 ところが、開き直ったところで歌える曲が無いのね。
 カラオケの機能がまずいのではない。
 そもそも普段から、のちに歌うことを踏まえて音楽を聞いているわけではないし、実はそれほどメロディに注目していないという、そのツケがまわってくるのだ。
 で、
 どーにかひねり出して小学生の頃にあたしが買ったサザンの唯一のシングル『思い過ごしも恋のうち』とRCサクセションから数曲をば。
 となるとあたしにとっての清志郎といえば『スローバラード』と『ヒッピーに捧ぐ』そして『トランジスタラジオ』あたりなわけであり。
 そいつでもって“あなたの番”とかいう強制的平等主義のノルマをやり過ごした次第でなのあった。
 さんざん聴いたけれど、歌ったのははじめてだったよ。
 むろん、その選曲センスへのオーディエンスの反応は薄く。
 店のママはむろん、若いおねえさんになんて、てんでウケないのだな。
 もてない。
 ほったらかしだ。
 イントロでイェーイとはならないの。
 おもわずデュエット♪ とはならないんだ。
 ならば、ならなくていいじゃんかと、どこ吹く風でノルマをこなすことに専念す。
 したら、こなしついでに、その場のみんなが知っている清志郎関連の曲『デイドリームビリーバー』を歌わされるはめになった。
 ははは。
 モンキーズの方の原曲の旋律を思い出しながら、モニターに現われる字幕の言葉を当てはめていくという、なんだろう。
 作業。
 はははははははははは。
 まあいいや。
 気分は、悪くはないのだし。
 そうある機会でもないのだし。


 女の子を口説き疲れて、ついに酔い潰れてしまった我らが上司を事務所まで送り。
 担当さんたちにお別れを言って、終電の終わった街へひとり。
 酔ってもひとり。
 渋谷のファストフード店の多くはその時間、始発待ちの仮眠所にさせるものかと、客席を使わせない。
 当てもなくも、居場所もなく、ふらふらと酔い覚ましに歩くのみだ。


 マッサージ、ドウ? アソボウ 
 オンナノコ イッパイ マッサージ


 戦時中、合法だった戦地や植民地での性風俗について極めて感情的な政治態度をエスカレートさせている例の国の出身と思われる女子たちに、声を掛けられる。
 へええ。


 アソボ オニーサン マッサージ


 へええ。
 酔った勢いで彼女らについて行っても、後年、強制的にさせられていたとか言われないだろうな。
 雇用への門戸が、外国人に対して差別的であるがゆえに仕方なく、とかなんとか「広義の強制性」とかなんとか言って。
 こわやこわや。
 それはさておき、本当に本当に感情的な反日なら、どうして自然発生的にこういうことしてるのでしょーか。
 わざわざ大嫌いな日本にまで来てさ。
 思うに、当時の風俗嬢たちを、最も理解できる可能性を抱いているのが、現在のアソボのお姉さんたちなのではないだろうか。


 え?


 で、結局ついて行ったのかって?
 いいえいいえ。
 かつ屋でカツカレーを頂いて、それから始発まで駅の前でぷるぷる震えてしました。


 派遣の身とはいえ、この現場では再三飲み会にも混ぜていただいた。
 契約にない作業にまで自発的に首を突っ込んでいたので、それくらいはしてもらって当然としてふるまっていた。ずーずーしくも。
 おそらくは、えらそーに見えた事でしょう。派遣の癖に、と。
 けど、ありがたし。
 そこはもう、ありがたし。
 ここへきて残業代をたくさんプレゼントされている。
 ご縁があったら、またよろしく。




 追記。
 スナック体験。



 あたしの性分なのか、ママさんや女の子のフォーメーションばかりに興味がわいちゃってね。
 それとなく注目してました。
 たった二人だったけれど、客より濃い水割をぐびぐびやりながら、歌も歌い、盛り上げて。
 でいながら客のなかに仲間はずれができないように、気を使って。
 たえず立ち位置を交換していましたっけ。
 これってガードマンの立ち位置にも共通することなのね。
 同じ場所に二人立っても意味がない。
 死角は埋まらない。
 うちらフォーマンセル以外には、常連さんらしき会社の重役っぽいお方のみで。
 ママがこっちを相手にしてる時は、女の子は常連さんに。
 その逆のフォーメーションにもさりげなくすり替わると。
 口の悪い客の「ばばあ」呼ばわりも、ママはするりと笑いにして。
 誰も観ていないのに、陽気に小躍りしていたり。
 で女の子はといえば、隣の席が引くほどの執拗で執拗で執拗で露骨な口説きやシモネタを、
 素っ気なくスルーするでなく、
 むろん忌避するでなく、
 ましてや手ぐすね引いたノリノリ感でがっつりと喰いついてくるでもなく、
 そう、


「照れる」


 という所作で、
 そしてそんなキャラ作りで、逆に場を盛り上げつつ、とりなしていた。
 頑として「照れ」つづけていた。
 うむ。
 それからその常連の上級役職者っぽいお方。
 愉しかったっす。
『また逢う日まで』〜『恋するフォーチュンクッキー』までこなす、守備の広さ。
 あそうか。
 スナックってのは、普段は知り合うことのない他業界や他地域の人と、束の間触れ合える場として機能するのですな。
 歌いたかったらボックスでひとりカラオケすればいいのに、と思ってましたが、それは違った。
 自分にとっての興味のあるものばかりをクリックして、取捨選択し、それで日常を固めているだけでは得られない情報。それがナマの他人なのですな。
 女たちがカウンターの向こうサイドに終始するのは、この客同士の横つながりを発生しやすくする役割でもあると。
 




 さらに追記。
 酔いつぶれた人。
 ひょっとすると、あまりに口説きがしつこく、エロ話も露骨になったので、女の子につぶされたのかもしれない疑惑が浮上。
 出来上がってからスナックに乗り込んだからか、あたしらその他三人に出される水割りは程のよい薄さでした。
 あれっ、と思ったんだ。
 こちらの酔い加減を見て作ってくれていたのかも。
 それこそ朝まで飲んで、愉しく歌っていられる感じの薄さで。
 きっとそうだ。
 一方彼のは、少しずつ濃いのにされたのでしょう。
 こわやこわや。
 




 初期のイッセー尾形の芝居を思い出した。
 
 
 



 ☾☀闇生☆☽