壁の言の葉

unlucky hero your key

 宮崎克原作、吉本浩二漫画『ブラックジャック創作㊙話』全四巻 秋田書店 読了


 手塚治虫に関する逸話や証言本は、きっと相当な数あるのだろう。
 トキワ荘関連を含めれば、膨大なものになるはず。
 んが、本作は焦点を代表作のひとつ『ブラックジャック』に絞っている点がユニークだと思う。
 連載までの経緯や執筆時のエピソードを、当時の担当編集者や編集長、アシスタントたちの証言として漫画化しているのであーる。
 その誰もが、また実に人間臭いわけで。
 コワモテ名物編集長のアクの強さ。
 歴代担当者たちのキャラ立ち。
 のちに大成して「先生」となった女性アシスタントたちですら、そんな描き方をされている。
 そして何より手塚本人だ。
 そのありあまる好奇心、豊富なアイディア、記憶力、仕事の早さと量および体力にはやはり、いわゆる「天才」というものを感じずにはおられないのだが、ここでは決してスマートには描かれない。
 汗臭い。
 んもお、むせかえるほどのおっさん臭。
 熱きおっさんなのであーる。
 スイッチが入り、野心に燃えるその笑みは、悪だくみに没頭するガキ大将のように不敵で。
 原稿にかじりつくさまは、缶詰を素手でこじ開けようとする飢えた子供のように、必死だ。
 とどのつまり、煩悩を成就させるのにまるで躊躇がないわけで。
 周囲を巻き込みながら突き進む。
 なのでそれが暴走しかけた場合にその都度、冷ます役割が要ると。
 手塚にとってはそれが実の妹であり。
 その象徴としてピノコがいるという解釈は、感動的だった。


 不肖、闇生。リアルタイムで読んでいない。
 なので今回はじめて知ったのだが『ブラックジャック』は手塚にとって起死回生の一作だったということに驚いた。
 虫プロの倒産と、人気の低下。
 倒産はともかく、ある分野で時代を築いた人気作家にとって、時代の移り変わりは不可避なはず。


「今さら手塚ですか」


 編集者にすらそう陰口をたたかれるような状況での乾坤一擲だったというから、いやはや。
 つええわ。



 なんにせよ、やはり彼を突き動かすエネルギー量に圧倒されるばかり。
 HUNTER×HUNTER的に言えば、オーラの総量。
 NARUTOならチャクラか。
 ケタ違いだよ。



 
 四巻一気に読んだ。



 ☾☀闇生☆☽