ケービのバイト。
今年初めての片側交互通行勤務でござった。
去年さんざん働いた、都道の交差点現場である。
それは十字路の字のごとし。
道は交差点から東西南北へと散開しており、その南下道の車線を半分、工事作業でつぶすと。
この日のケービチームは三人だ。
そのなかの体育会系女子に、この道の停止線を担当してもらうことにした。
それは信号の変わりを予測しながら早めに停止の合図を出す係で。
この道は大型バスが行き来するので、合図のタイミングを見誤って交差点で停止されると面倒なことになる。
よって信号と、
進入してくる車の速度と、
その運転技術を見計らいつつのお仕事である。
んで、
あたしはといえば、交差点を挟んだその逆。北上の道。
北から来る車両の停止は信号がやってくれる。
して左折と右折は行かせて、直進(南下)だけは待たせるという、ちょいと面倒くさい役割。
基本的に女子のついた道はバスとタクシーが多いから、信号がかわるたびに優先して進めさせる。
バスは時刻表を相手にした、いわば電車のようなものだし。
タクシーは、それがたとえ『空車』であっても、なにかしら急いでいてガラが悪いからだ。
車内から怒鳴ってくるからね。彼らは。
あのテンションで客を拾って、いったいどんな接客をするつもりなのかね。
…まあいいや。
このとき信号の変わり目を突いて東西の道からイケイケで南下しようとする車が面倒でねえ。
よってあたしが交差点の中央までずずずいっと進み出て、左右のこれを確認し、早めに女子に『進めて良し』の合図を出す。
と同時に、
左折右折を仕分けしながら自分の担当車列を進ませて、直進車(南下)だけに交差点の中央で待ってもらう。
後続の右折左折車を脇から行かせるためにね。
して、そうしながら、女子の『進めて良し』を待ち、合図をうけて受け持ちの直進車を行かせると。
このパート、この日の他のチームメイトには困難とみて、自ら名乗り出た。
おほん。
誰も担当分けをしようとしないんだもの、ついカッコつけちったよ。
どうだい。
何でもかんでも停止と進めだけでこなそうとしていた頃よりは、ちょっち進歩しただろうが、俺。
しっかしまあ、今年に入ってずっと立哨が続いていたので、強いられたのはまず頭のギアチェンジだった。
けれど忙しさのぶんだけ時間が経つのが早いのは、ありがたいですよ。
で、
作業帯まわりの歩行者誘導には、いつもぼんやりと工事作業を見つめてしまう先輩についてもらったのだが。
そう、このご年配の先輩。
去年はさんざん苛立たせられたが、この日は作業開始三十分前には装備を整え、停止線と工事予告の看板をひとりで設置していた。
あたしがこの現場から遠ざかっている間に、また何かあったのだろうか。
トイレ休憩も小まめに手配してくれるしさ。
常駐責任者としての頼もしげなオーラが、まざまざと。
して、体育会系女子。
ほんの数ヶ月前は新人でカチコチだった彼女も、経験をつんでゆとりが出てきたようで。
チームメイトとの会話にも、自然な笑顔があって新鮮。
おっさん、そのニキビがまばゆかったぜい。
ともかく、
みんなすげーぞ。
で、
かく云う俺は、どーだ?
ちゃんとできたか?
トータルで二度、合図のタイミングを見誤っちまったなあ…。
ところでこの現場、
ほかと比べて作業員の方々が無愛想だ。
言葉づかいもぞんざいで。
時にアゴで使う。
いや、それもあわただしい作業内容がゆえなのだろうが。
あのね、交通量が多いから、緊迫してるのね。
しょーがない。
それに比べて建築現場は、温和な人が多いなあ。
それと、
どの現場も監督さんのキャラクターが下々に伝染してますね。
先日、とある現場の社長さんにお話を伺う機会がありまして。
それは外資系の会長職をひきあげて、土木業を立ち上げたお方。
だいたいああいった現場というのは、正午の昼食以外に小休憩が二度あるのが習わしである。
十時と、三時。
現場はどこも怪我や事故がつきもの。
であるからして、この小休止を入れることで、集中力を保つと。
むろん肉体の休息でもありますが。
事故ひとつで、怪我はむろんのこと、賠償などで軽く会社がふっとぶこともあるのだから、ね。
してその社長さん。
作業着姿で、自ら陣頭指揮をとられるお方だ。
曰く、二度目の休憩のあとは、帰り支度をしながら同時に作業をすすめるのだとか。
して、予定よりぐっと早めに切り上げる。
というのも、作業員が十人いれば、そのなかの一人か二人は『帰りたがり』がいるもので。
そんなのは採用しないに限るのだが、比率としてはどうしようもない。
特に二度目の休憩のあとは、それが態度に出てくるものらしい。
早く帰りたがるあまりに、仕事を焦るのだそうだ。
で、
案の定、事故る。
原因には必ず、そういうヤツがからんでいると。
そこで、先日ついた鳶の現場のハナシ。
作業員は全員が二十代である。
お肌つるつるだ。
一番下に入りたてらしきコが一人いた。
現場の空気は若さゆえか、ほとんど暴走族の態。
「んだとこらっ、はやく持って来いっつってんだよっ」
足場の上からの怒声に、地上ではその新人のコが右往左往している。
通りに面したアパートの外壁工事なので、そのコは歩道を、鉄パイプや道具を持って走り回っている。
危なっかしくて、見てられなかった。
作業工程的に焦るところでもないのに、よりによって先輩が焦らせているのだから、よろしくない。
事故にならなければいいが。
そう思いつつケービをしていたのだが、案の定その先輩が、信号で停止している車両に触れてしまった。
建物を地上から見上げながら後退して、そのケツを「とん」とあてたのだ。
腰には金属製の作業道具をぶらさげるベルトがある。
幸い、車体にキズはつかなかったが、あわや弁償問題になるところであった。
新人君だって、いつパイプを歩行者に当ててもおかしくなかった。
ああ、これも現場をたばねるリーダーの資質のあらわれなのだろうと確認する。
あれだけ焦ったくせに、作業は半日で終わってしまったのだ。
このチームは、いつかきっと事故るでしょう。
しかしまあ、チームの空気というのはそこを飛び交う言葉遣いに左右されるものだと、痛感する日々。
どうですか。
あなたの日常のチームは。
どんなカラーすか。
☾☀闇生☆☽