ラリー・ピアーズ監督作『ある戦慄』DVDにて
1968年 米国
ジャケはカラーだが、本編はモノクロ。
深夜のニューヨーク。
マンハッタン行きの地下鉄の車内に、二人の暴漢が乗り込んでくる。
ドアの故障により密室と化した車内で獣のように騒ぎ立て、好き放題に暴れ、乗客たちにちょっかいを出してはその反応を哄笑する二人。
居合わせた乗客たちは黙殺しようとするが、二人の狂騒はとまらない。
しかしついに彼らを諌めようというものが一人二人と立ち上がる…。
乗客たちのキャラクターの描き分けが豊かで、
白人を憎悪する黒人カップル。
休暇中の負傷軍人。
孤独なゲイ。
別れた妻とよりを戻すために禁酒している男、など。
それぞれが日常では体裁や希望を抱えてはいるのだが、密室という逃げ場のないシチュエーションのなかだからこそ、危機を前にして本性が現れてくるという仕掛けはおもしろい。
むろん、
類型のシチュエーションものはのちにいくつも作られている。
たとえば『CUBE』とかね。
本作はその草分けではなかろうか。
暴漢二人の若さのもてあましは、
希望も目標も得られずに日々退屈に翻弄されるしかない、やり場のなさだ。
社会に唾し、からかい、嘲笑し、
しかしかといって自前の理念を抱けるわけでもない、苛立ち。
それでも生きたがるのだな。
『時計仕掛けのオレンジ』と、どれくらいタイムラグがあるのだろう。
なかでも白人にたいして毅然とした態度をつらぬこうとする黒人と彼を侮辱する暴漢のやりとりは、この時代に映画にするには相当な勇気がいったのではないか。
終始、自分があの車両に居合わせたらどう振る舞っただろうか、と考えさせられる。
9.11や、
あるいはかつて実際にあったバスジャック、銀行強盗の籠城事件などを思い出す。
チンピラの一人(アーティ)が若きマーティン・シーン。
負傷軍人がボー・ブリッジス。
見ごたえありました。
闇生