壁の言の葉

unlucky hero your key

 夜勤帰りだった。
 最寄りのコンビニにクロスカブを停めて、ふとスマホを見た。
 フォロワー様からの返信で、何かがおきていることを知る。


 勤務中の休憩時間にスマホを覗いたときには別のフォロワー様が誰かを悼むツイートをしていた。
 けれどそれは前日に報じられたジェフ・ベックについてだと思っていた。
 しかし矢野顕子が『YMO goes forever.』とツイートしている。


 もしやと思い他の関係者のアカウントを調べる。
 真相を知って、少しだけ脱力した。
 目頭が熱くなりかける。が、大丈夫。心構えはできていたのだ。
 長い闘病生活の経過は本人のツイートなどで断片的に報じられてきたし、
 しかしそのツイートもいつからか途絶え、
 年末のトリビュート・コンサートも本人不在という異例の事態で開催された。
 ビデオ出演も、メッセージすらもなかった。
 そういう経緯が、時間をかけて段階的に覚悟をさせてくれていたのだと思う。



 いつも通りに酒を買い、
 つまみを選んだ。
 大丈夫。
 来るべき時が来た。それだけだ。


 けれどカブのエンジンをスタートする気にはなれなかった。
 何故だかよくわからない。
 自宅まで数百メートル、バイクを押した。


 飲みながらファンや関係者の追悼コメントをハシゴしていく。
 淡々と読んでいく。
 自分も正直な所感をツイートする。


 いつも通りに眠り、
 昼過ぎに目覚め、
 休日なのでのんびりとまた追悼ツイートをハシゴする。
 

 そのまま日が暮れた。
 

 夜半、
 808stateが追悼のYMOmixをツイート・リンクしていた。
 細野さんのソロ曲から始まり、やがてBEATNIKSの1st冒頭『詩人の血』が使われる。
 そこでやっとこみ上げてきて、涙が止まらなくなった。


 世界ツアーの映像と、ライヴ盤『パブリック・プレッシャー』にはまったのは小五だ。
 サッカーのスポーツ少年団の練習から帰宅して、着替えるのも忘れて中継映像に釘付けとなった。
 テレビドラマのある回が『ソリッド・ステート・サバイバー』を丸ごと一枚サントラにしていた。
 菜箸をスティックに、水ようかんの空き缶をシンセドラムに見立てて真似して叩いた。
 新聞の番組表では毎日『YMO』の三文字を探しまくった。
 彼の参加アルバムを捜し、
 影響を受けたミュージシャンや映画や作家を覚えた。
 気づけば、1stガンダム世代なのに、ガンダムのことは何も知らない。
 自分にとってのヒーローはアニメや特撮の主人公ではなく、彼だった。



 
 
 
 
 
 


 盟友・坂本龍一は一面グレイの画像で、
 一番弟子と云われたスティーブ・ジャンセンは黒一色のインスタで弔意を表明。
 


 
 ありがとう、高橋幸宏
 どうか安らかに。




 
 ☾☀闇生☆☽