山中奈緒子著『東京・徳島そしてグルジアへ』手製本 読了
西荻窪 ニヒル牛『旅の本展*1』通販で購入。
昨年発表された石川ある著『愛しのグルジア*2』。
その旅を、同行者である山中奈緒子の視点から記録した本。
「ある本」と併読すれば、ザッピング的な楽しみ方もできる贅沢な仕様でござった。
旅はまず単独の徳島行きから始まる。
著者が贔屓とするバンドのライヴが目当てで、
石川あるとその仲間たちとの合流は現地グルジアでという流れ。
この徳島への船旅からして楽しい。
フェリーの船内を、まるで社会科見学に盛り上がる子供のごとくに堪能しているのだ。
面白がる人というものは、理屈抜きに面白いわけであり。
船内に食堂がなく、食事はすべて船内の自販機だけで賄わなければならないことすらも愉しんでしまうから、それを読者も楽しめる。
自販機のラインナップの豊富さに贅沢を感じ、驚き、満悦するのだな。
好奇心旺盛で、かつ幸福の基準が定まっている人は、しあわせにしかなれない。
だからこのフェリー旅の船内の記録からして強かった。
いますぐにでも船旅をしたいと思った。
そうか。
旅にはフェリーという手もあったよな、と。
そしてもはや著者おなじみとも言える手書きの文章だ。
これがまた体温の灯まで感じられるようでありがたく。
筆圧まで丸出しになる手書きの引力というのは、やはり強力だと思ふ。
愛でるがゆえに綿密に描き込まれた風景イラストがこれまた手描きで、著者の『好き』度がふんだんに注ぎこまれている。
これもまた手描きの引力であり。
あられもないほどの肉筆で。
とどのつまり、これが山中本の魅力なのである。
そして、
歴史に煮込まれていい具合に出汁のしみこんだグルジアの街並みを、人を、仲間たちを、このあたたかな手で可愛がるものだから、
『チアトゥラはギュッとした小さな田舎街だった』
不意にドキっと、やられてしまう。
ううむ。
もののあはれを知る女とみた。
今回も充実の内容でございました。
おかわりっ!
※追記。
石川ある『愛しのグルジア』と本書の中での石川浩司の描かれ方を比べると面白いよ。
『愛しのグルジア』と併読すれば、石川あるから見た山中奈緒子が読めて、これもまた楽しい!
同じ街でも時間の流れ方がちがうようで。
山中奈緒子の前作への感想はこちら。
yamio.hatenablog.com
闇生