旧甲州街道歩きを中断したまま随分になる。
夏。日本橋から出発し、半日歩いては中断というペースで休日のたびに進めていた。
笹子の駅で引き返したのが最後。
峠は目前であった。
躊躇わせたのは、主に装備の点だ。
笹子の無人駅には登山者に対する注意書きが掲示されており、
曰く、軽装でやらかすな、と。
とどのつまり、山をなめるなということだ。
街道一の難所を前にしてのこの掲示物だ、そろそろ装備をマシなものにしておかなければ、と思い直したのであーる。
それまでは普段のウォーキング・スタイルでなんとかなった。が小仏峠や朽ちかけた丸太橋を渡るのには、やはり無理があったと思う。
せめて靴くらいはこうした街道歩きに耐えられるものを、と。
そうはいっても本格的な装備を整えるとなると、けっこうな金額になるのも事実で。
言ってもあたしゃしがないケービ屋だ。
出来るかぎり、リーズナブルに済ませたい。
そこで専門誌などをあたってみることにした。
やはり1万円はくだらない。
最低限トレッキング・シューズと呼べるレベルとなれば、人気商品はだいたい2万円前後だろうか。
ケービ屋のあたしの身の丈にはとても合わないが、歩く以上は最終的には靴にすべてを預けることになるのだから、と肚をきめて現金を下ろした。
予算、2万円。
専門店は、さすがに敷居が高々とそびえ立っているので、まずは近所の大きめの靴屋を覗くことにする。
普段履きですらなかなかあたしのサイズにあった商品に出会えたためしのない半生であったのだが、この日は珍しく28cm~30cmのトレッキング・シューズが並んでいる。
値段も1万円前後。
こりゃいいわいとまずはジャストの27.5を試し履き。
無理。
28.0を試し履き。
幅が若干きついが、履いているうちに慣れてくるだろう、と高をくくりたくなる感触。
心が揺らいだ。
これでいいんじゃねえの? と。
値段も税込みで1万程度。
んが、峠越えの靴をそんなやっつけで決めていいのか、と己をたしなめて他をあたる。
やはり、ない。
かっこいい靴はみな幅が合わないのだ。
あきらめて他のコーナーを見ていると、いつもはダサいデザインばかりの「大き目サイズ」コーナーに、そこそこ靴底の頑丈そうなウォーキング・シューズを見付けた。
ダンロップ。
しかも通気性と撥水性の高さをうたっている。
税込み約5000円也。
ええいままよと29.0を試すと、しっくりと足になじむではないか。
即決した。
これくださーい。
仕事で履く安全靴は27.5。
冬場に靴下の重ね履きを考えても28.0である。
それが29.0て。
幼児期、バカの大足と兄にからかわれた。
奮発していいものを買おうとしているのに、気に入ったデザインの靴はすべてサイズがあわないという半生。
専門店なら、あたしのアシにでも合う素敵な靴がみつかるのだろうか。
よし。
この5000円のダンロップ靴で、年末年始の気まぐれ旅をこなそう。
闇生