壁の言の葉

unlucky hero your key

靖國から一般参賀へ。

 靖國参拝から皇居一般参賀へ。


 九段に到着したのはちょうど昼。
 あたしゃ三が日の靖國というのを、終戦記念日のそれと同様に食わず嫌いにしておりまして。
 わかりますでしょ?
 殺気だとか、
 敵意だとか、
 怒号をかいくぐって参拝する対象ではないと心得ているのね。
 なので、まあ、嫌だったんですわ。
 とりわけ三が日や終戦記念日が騒ぎとなるのが。


 たしかに各団体の、なんか難しい日本語の書かれた街宣車が付近にずらりと路駐されてはいた。
 けれど、いきがった空気は感じられなかった。
 といってチョコバナナや焼きそば屋の露店がずらり、といったくだけ切った風情もなく。
 むろん、軍服姿の三島のTシャツを売っていたり(あの三島の肖像権というのはどうなっているのだろうと、毎度疑問に思ふ。)、尖閣基地問題についてなにかしら主張しようとする人たちが歩道に居ならんで署名を求めていたりはするのだが、それもいたって穏やか。 
 そこへあえて議論をふっかけたりするような人も見受けられなかったし。


 一礼して大鳥居をくぐる。
 と正面に大村益次郎像がどーんとむかえる。
 手水舎のまわりは順番をまつ人たちで混雑してはいたものの、列は幾筋も鉢を囲んで放射状にのびているので、おもったほど待たされることはなかった。
 割り込みや順番抜かしをする人もいない。


 これだけの人が集まっているというのに境内は静か。
 てか厳か。
 考えてみると不思議なのだが。
 さらに考えてみれば、それが当然という……。
 三が日の寺社や商店街というのは例の琴と尺八のBGMをエンドレスで流し続けているものだろうと。
 それがここ靖國ではBGM無しなのである。それが新鮮だった。


 むろん参拝には並ばなくてはならない。
 列は牛歩よろしくじりじりと進む。
 前日の川崎大師とはちがい誘導員に小分けに分断されることはなかった。
 参拝したら左右に退場するようアナウンスがされているだけ。


 参拝をすませ、さて御札かお守りを、と考えたが今回はやめておく。
 交通安全祈願とか、無病息災とかのご利益を求める対象として靖國を解釈するのは、あたしにとっちゃしっくりいかない。
 先人たちが『今』につなげてくれたこと、それへの感謝につきるんじゃねえかと。
 私益までいただこうなんてのは、少なくともここに関しては、ちょっとね。


 正直なところ、ラベルの無い透明なガラス瓶におさめられたお神酒には、惹かれたさ。
 透明なままの凸字で『靖國』とある。
 が、あたしがこれを買うと、酔うためにしか飲まねえだろうと、もうひとりのあたしがツッコミをかますのだな。
 浄めに使わんことには不謹慎だろうと、思いとどまった。


 さて、時間がまだある。
 日も高い。
 ご近所ということで皇居まで歩くことにした。
 この日の皇居周辺は各所で交通規制がされていた。
 それは一般参賀への群衆の流れをスムーズにするためのもの。


 さすがに大変な人出であった。
 日の丸の手旗を配るひとたちがいて、一本いただいて進む。
 あたしゃ手ぶらで行ったので所持品検査のレーンはスルーだ。
 手ぶらの人用のレーンはすっかすか。
 そのあと金属探知機でさらっと前後をみてもらう。
 で、到着順にブロック分けされて一時間半ほど待ったか。
 強い日差しのなか砂利の上で立ち尽くし、待った。
 見渡せば、外国人が多い。
 あたしたちゃ並ぶことが文化にもなっているが、よくもまああの人たちも忍耐強く並んでいるなあと感心。
 仲間と会話をして、退屈しているようにも見えなかった。
 年寄りも多いが、座り込む人も少ない。


 にしてもMP3を持参していてよかった。
 談志を聞きながら待った。
 今後の参考として言えば、ひとりでいくより二人以上で行くことをお勧めするね。
 というのも、この待ち時間の間にトイレに行きたくなるのよ。
 冬だし。
 近くなるでしょ。
 一旦列から外れるためには、そこにひとり残っていてもらわないことには、無言の顰蹙をくらうことになってしまう。
 相方と交代でトイレに行くのがよいでしょう。
 それでももといた場所を探すのに苦労するほどの人の数だ。
 それとマスクを持参するのがいい。
 大集団が砂利の上を移動するので、もうもうとほこりが立ち上るのである。
 人によっては気にしない程度ではあるけれど、用意しておくにこしたことではない。


 さて、一時間ほどでようやく入場。
 14時20分の回。
 ふだんは入ることをゆるされない区域をぞろぞろと進む。
 陛下たちがお出ましになる例の出窓の正面はやはり人気で、みなそこで立ち止まってしまう。
「右奥がすいていまーす」
 と誘導される。
 観にくいといって醜いことになったんじゃ申し訳ない、という気持ちが一斉に生じたかどうかはあやしいが、案外、奥へ奥へと進んでいく人がいる。
 自分もそれに続いて空いている方に流れていく。


 なるほど出窓を正面に見て右奥のスペースは、距離的と角度的にはそう問題ではないのだが、逆光になるのだった。
 雲ひとつない晴天である。
 天皇は逆光でみてこそではないか、などとあきらめておく。


 しかしまあ、背の低いひとやご婦人方にしてみれば、見えにくい。
 肩車などは後列の邪魔になるので自粛するよう求められているし。
 子供はせいぜい抱っこかおんぶまで、とお願いされる。


 そうなると手渡された日の丸もあまり高々と手を伸ばして振るのは憚られるわけで。
 陛下たちがおでましになっても、顔の前でこそこそと振るのが精いっぱいであった。
 一番右側におられるのが眞子内親王であることは、わかった。
 もうね、うちらの世代は眞子さまのご成長とともにあるからね。
 御幼少の頃の映像に、国民はどんだけ心をとろかされたことか。
 ご成婚が決まったのでこれが最後の一般参賀だと思うと感慨深いものがあるね。


 今回、あたしにとっちゃはじめての一般参賀であり、はじめての皇居だったわけだが。
 皇宮護衛官に注目したね。
 皇居のなかにも外にも警察関係はわんさか居たけど、中は皇宮警察本部の管轄というわけで。
 調べると警察庁の付属機関であり、警察官ではないとされている。
 女性護衛官もけっこういた。
 で、風情がまるで違うのよ。外の警察と。
 良し悪しは別としてね。
 そこが面白かったな。
 双方とも役割がまるで違うので、そりゃ面構えや風情に出るだろう。

 
 


 帰路。
 さぞかし地下鉄の駅構内は捨てられた日の丸で散らかっているだろうと思ったのだが、見かけなかった。
 なんか縁起物よろしく受け取ったはいいけれど、処分にこまるね。国旗だもの。


 これといった理由もなく新宿で下車。
 どっと腹が減る。
 そういや朝から何も食べていない。
 ぶらぶらして、末広通の桂花でらーめんをいただく。



 さて、明日はどこに行こう。



 追記。
 あ。
 どうせ新宿に出たのだから花園神社に詣でるべきであった。


 それと帰りに通った武道館。
 翌日の恵比寿中学文化祭とかなんとかの準備中であった。
 女の子たちが販売スペースらしきテント下で打ち合わせをしていた。
 都会の中学はカネ持ってるなあ、と感心したが、これアイドルグループなのね。
 おもわず仲間にメールするとこだった。
 あぶねあぶね。
 

 ☾☀闇生★☽