談志の『鼠穴』を聞く。
絶品なり。
ところでこの噺を聞くたびに毎回思うのは、
廓で遊び呆けて財産を使い果たしてしまった竹次郎が、心機一転、やり直そうと兄から商売の元手を借りてからのこと。
貸してくれた金額がたった三文であると知るのは、兄宅を出たあとだった。
落胆と怒りでこん畜生と思いながらも、その三文から再出発する竹次郎。
たった三文では空の米俵ですら買えやしない。
なのでまずやったのが米俵の天地を閉じるさんだらぼっちというのを買ってきた。
そいつをほぐして小銭を閉じるサシをつくって売った。
サシとは銭形平次が寛永通宝をくくっていたあの紐のことだろうか。
そのあがりで空俵を買ってくると今度はわらじを編んで売る。
コツコツ稼いで、その合間にも魚売り、竿竹売り、金魚売り、納豆売り、うどん屋……と昼も夜も働きどおしで十年かけて倉を三つももつ質屋の主人になった。
……という流れなのだが。
闇生が気になるのは三文を借りた最初の夜。
飲み食いと宿はどうしたのだろうかと。
それくらいの手持ちはあったのか。
それとも野宿でもしてしのいだのか。
ニンゲンすっからかんになってしまうと、当面の飲食で精一杯になってしまって身動きできないからね。
面接に行こうにも、交通費が無い。
服がない。
履歴書を買うお金がない。
添付する写真代がない。
それだけ使って面接をうけても受からなければ、それでおしまいだ。
とりあえずその晩の飯のために当日払いの日雇いを探すが、その現場までも歩かなければならない。
その前に電話で申し込まなければならない。
けど、何もない。
というそういう状況からの再出発でごさいましょ?
まあ、あたしゃそれを経験しているだけに、気になってしまうのだな。
さて、今晩はやっぱ定番の『芝浜』にしよっかな。
この噺もダメ男が心機一転する噺だったな。
☾☀闇生★☽