壁の言の葉

unlucky hero your key

現場。


 片交。
 柔道有段者S君に交差点側をまかせて、相方に新人のKさんを配置。
 このKさんがなかなかに勘のわるい人で、信号のタイミングもなかなか覚えず、ラストの車番報告も合図も忘れる。
 停止動作をみていると、いまだに及び腰になっている。
 自動車免許をもたないので、車の動きも把握していない。


 開始早々に無線から「もう一台流せたよっ」と怒号が飛ぶ。むろん頭Fさんから。
 毎度お決まりの新人いびりである。
 あたしがそれをたしなめた。
「信号のタイミングもまだわかっていない段階なんだから、新人には無理です」
 重量級ガルパニストKさんがそれにつづける。
「流すことより、まず切る(止める)ことから覚えてね」
 ガルパニストKさんは頭Fさんよりはるかに年下だが、はるかにベテランという関係。
 バツが悪かったのだろう。休憩中も頭Fさんは当人のいないところで新人Kさんをさして、反応がにぶいだの、脳梗塞の後遺症患者みたいだのぼやいていた。
 教育中の新人を無線で外野からちょっかいを出すのは、いただけない。
 利口のすることではない。
 その日の指導役に預けたら、マンツーマン。ほったらかしでいい。
 頭Fは怒鳴ることにカタルシスでも覚えているのだろうが、そもそもそれ自体に効果はまったく無い。
 現場を不穏にするだけである。
 よくなく犬ほどなんとやら、というやつで。周囲はそれを軽蔑している。
 できない人をののしっていても何も始まらないのに。


 共有スペースである詰所の片付けをしない。
 自発的な持ち回り制になっているゴミの持ちかえりを、決してしない。
 非喫煙者のまえでお構いなしにタバコを吸い続ける。
 くちゃ男。
 昭和の思い出話ばかりする。
 バブル期の自慢ばかりする。
 それも座談状況で、話のながれに関係なくする。
 しつづける。
 稼いでいる仲間へのむきだしの嫉妬。
 休憩を1分でも多くとろうとする。
 新人や応援者への無視。無愛想。いびり。


 ……。


 月曜からは片交マニアTさんが別の現場に移る。
 ミリヲタDさんとガルパニストKさんも別の規制現場に移る。
 レギュラー陣でこの現場に残るのはこの頭Fさんとあたしだけである。
 こんな奴と、来週からこの現場をまわさなくてはならないなんて。



 夜半。
 小雨が雪になる。
 この日は自転車で出た。片道40分。
 それ自体、みんなにウケた。



 ならばよし。


 
 02時半終了。
 こんなに早く終わるのは久しぶりだ。




 ☾☀闇生☆☽