壁の言の葉

unlucky hero your key

てーへんだ、てーへんだ。


 昨日、
 日中に会社から連絡がはいる。
 夜勤明けに都心の日勤に出てくれませんか、とのこと。
 午前10時スタートで、2時間程度でおわる舗装のなおしだという。
 それでも繁華街の歩道なので誘導が必要らしい。
 当初は木曜に予定されていた現場だった。
 なので、おそらくはそのやり残しにちがいない。
 こういうのをあたしらは「おいしい現場」と呼んでいる。
 夜勤あけでも十分に仮眠がとれるし、
 またそのあとの夜勤までに時間もあるので3連投ができるというわけ。
 会社があたしなんぞにこんな話をふってくれたのは、ご褒美ということでしょうか。


 あたーす。


 即答である。
 2名現場で、もう一枠が空いている。
 誰か心当たりがありませんか、と会社マン。
 その条件なら夜勤組は誰でも行きたがるのではないか、とあたし。
 俗に言う「夜勤組」の年配Fさんが土曜日勤も希望していたことを、電話口で思い出す会社マン。
 ならばあたしとそのFさんのコンビで「おいしい」をいただいちゃうことになるだろう。
 んが、
 電話を切ったあと、思いなおした。
 せっかくの「おいしい」ではないか。
 ならばこそ、この自分の枠を、普段からお世話になっているベテランでリーダー気質のDさんに譲ろうではないかと。
 彼にショートメールで「興味ありますか」とこの件を伝えると「あります」と返球。
 闇「Fさんと行ってくれますか?自分はちょっとつかれているので連投は遠慮したいのです」
 Dさん「闇生さんは行かないの?残念です」
 闇「つかれました」


 「つかれ」云々は、方便で。
 内心は日頃のご恩返しのつもりであった。
 土曜は夕刻から大雪という予報である。
 あたしの常駐夜勤現場は中止になる見込みだ。
 ならば日勤にでも出て、すこしでも稼いでおくのが利口でしょう。
 と、それを見越した上で、そう判断したのね。ええい譲っちまえと。
 お召し上がりくださいませと。
 今週はアタマから雪で中止にされていたので正直いうと稼ぎたいのだが。
 ふところ的にきびしーのだが。
 年配Fさんの件がなければ、むろんDさんとあたしで組んで出たのだがあ。 
 Dさんが出られなければ、これまた新人の頃からお世話になっているKさん。ガルパン好きの重量級大ベテランを誘ったのだがあ。ええ。ええ。
 アシの無いKさんが面倒がるならいまの常駐現場で組んでいる年下で片交狂のTさん。そう言いたいところだ。
 んが、彼は生憎と土日を定休と決めている。
 ま、親もとの子だからね。
 それをいうと家にカネを入れてるとか。飯はコンビニかファストフードで済ましてるとか、親もと者が決まってのたまう屁のつっぱりをかますんだけど。
 ま、結局は親もとだからね。
 ましてや親を世話してるわけじゃないからね。
 そこまでがっつかないよね。
 ならば、ノムさんタイプのじめっと&ねちっとキャラ。妻帯者の連投請負人ベテランYさんか。
 煙たがられてからというもの彼と組むことはめっきり減ってはいるのだが、これまたかつてのご恩返しのチャンスでもある。
 返せるものは、返せるときに返しといたほうがいい。
 とにかく、あたしのあたまに年配者Fさんという選択肢は、無かった。


 この夜、現場の詰所につくとリーダー気質Dさんがカップ麺「トン汁うどん」をくれた。ニュータッチの。
 ありがたし。
 それがあたしの「譲り」へのレスポンスなのかどうかは、おいといて。
 そのさり気なさ、ありがたし。
 この時期、夜食はカップめんに限るのよね〜。
 しかもトン汁〜♪
 ありがたし。ありがたし。
 Dさんは例の「おいしい現場」の件を何も振って来ない。
 なのでこちらも黙っておくことにする。
 おいしい現場というのは、とかく周囲の嫉妬を買っちまうもので。
 (やーね。てーへんて。)
 そこは暗黙の了解というやつで。
 居合わせたほかの隊員たちの手前というものが、ある。
 だもんでそこはひとつ黙るのだな。
 ところが、
 現場開始の直前に、年配Fさんがその件をあたしに振ってくるではないの。
 すぐそばに片交狂Tさんがいるにもかかわらずだ。
 Tさんの耳には入ったことだろう。
 あたしゃ軽くたしなめた。
 まあまあ、と。
 ったく、じじいめ。配慮というものがないのだ。
 デリカシーがない。
 ないからこそじじいなのだろうが。
 彼はてっきり翌朝の「おいしい」はあたしと組むものと思い込んでいたらしく、まさかあたしが自分の枠を他の仲間に譲ったなんて思いもよらないようだった。
 てか、理解できないだろう。
 きっと彼は「おいしい」同志として、ほくほく感を分かち合いたかったのだ。
 ったく、じじいめ。
 彼は本業を別にもっている。
 ならばそっちで稼げばいいものを、おいしいのよこせ、よこせと会社の人間を恫喝してまで食い漁ろうとする。
 しかも現場では楽ばかりしようとする。
 なのにむやみに怒鳴る。ののしる。
 だもんで嫌われる。
 若い社員はそのうるささに閉口してついつい彼に「おいしい」を与えてしまう。
 配置する人間からすれば、ひとりの隊員はひとりの隊員に過ぎず。
 単価はおなじで、受注の穴を定時までにうめられればそれでよいのである。
 なので、ゴネ得がまかり通ってしまう。
 けど、そんな人の使い方をしているから、本当に人が要るときに買って出てくれるものが現われないのである。
 会社からのお願いは受けた奴がバカを見る。という風潮になっていく。


 だもんで、
 あたしの頭にFさんは無いのだな。







 ま、ともかく、どんだけ降るんでしようか。今夜。
 降り始めるまえにいつものようにウォーキングを。
 そんでもって部屋に籠って本でも読んでいようかな。
 






 追伸。
 現場の恩返しもね、返した奴がバカを見るという風潮が根強くあってね。
 だから、そういうのはあげっぱなしでいるほうが、いいね。
 恩着せがましくせず。
 ありがた迷惑を警戒して。
 さらりとドライに。
 さりげなく。
 さりげなく。
 そこは自己満足で、おっけっす。






 ☾☀闇生☆☽