目の前で、はねられた。
それこそ2m先で。
たぬきが。
道路工事の夜勤で片交を務めるあたしの目の前でのことである。
ちらちらと某施設の植え込みの中からこちらをうかがっているのは察知していた。
こら、あぶねえぞ。
と誘導の合い間に誘導灯で追い払っていたのだが、日常的につかう通り道なのだろう。連なる対向車の列の前にたたっと駆けだして、間一髪で通り抜けたのに、車道から対岸の歩道に上がりかけたところで何を思ったのか踵を返すように引き返してしまった。
そこを列の二台目にはねられた。
はねた車はそのまま行き過ぎて、たぬ公はセンターラインの上にのびてしまったのである。
とりあえず抑えていた自分側の車列を流しっぱなしにして対処しようとしたが、先頭のドライバーも目撃してショックなのだろう。動かない。
たぬ公、痙攣している。
二重、三重にひかれたんじゃかなわない。
ともかくも抱きあげて歩道に移した。
あたしの腕の中でも痙攣していた。
それを確認したかのように自分側の車列が動き出す。
無線で仲間たちに報告。
見る間にたぬ公、動かなくなってしまう。
そのうち仲間の一人が、近くを通りかかった女性警察官に報告する。
さして驚きもせず事務的なリアクションをされたので、ほんとに対応してくれるのか、その同僚は半信半疑。
しかしその界隈ではたぬ公がひかれることは珍しくないらしく、間もなく女性警官はビニール袋と新聞紙の束を携えて現場に急行してくれたのであった。
たぬ公は最初からここにいたのか、質問をされたので片交をしながら経緯を説明。
どうやら警官はまずあたしの身を案じてくれたらしい。
素手で触れたのかどうかを確認し、感染症に気をつけるようにと。
新聞を広げ、
二重三重に、丁寧に丁寧に丁寧にたぬ公を梱包していく警官。
最終的にビニール袋におさめると交番の方に去っていった。
ご苦労さまです。
その背中に敬礼す。
倒れていたセンターラインに薄く血のあとが残っていた。
むかし、同じような状況で猫の死体を片付ける警官を見たことがある。
あたしの立ち位置とは反対車線。中央分離帯をはさんだ車道で、途切れのない車の流れに二重三重にひかれつづける猫を、自転車で駆けつけた若い男の警官が片付けていた。
通報を受けてのことだったろう。
長距離トラックやトレーラーの行き交う道である。
それはもう無残なことになっていた。
ほいと抱き抱えて回収、という状態にはない。
世にケーサツ嫌いはごまんといるが、ああいうのを率先して「ケーサツなんかにまかせられるか」と自ら買って出てくる人は、どのくらいいるんだろうか。
追伸。
見てると男たちはアレだね。ソレを知って一瞬の憐れみを感じたあと、かならず「たぬき汁」がらみの冗談でお開きにしようとするね。
☾☀闇生☆☽