ココマコムーン著『地球無期限の旅5』手製本
はい。
というわけで、あたくし闇生がニヒル牛2で購入した旅本の紹介。
ラストを飾るはココマコムーン。
タイトルに『5』とあるように「超未来から来た、高次元で暮らしていた生命体『ココマコムン人』」であらせられるココマコムーンさんの5冊目の『地球旅行記録』なのであーる。
前作はといえば、自宅の床の欠陥と隣接する畑からの騒音をめぐり、大家および近隣住人とのあくなき闘争がつづられていたのであるが。
我々凡人にも旅と解釈できる旅らしい旅といえば、新宿の夜景を堪能するためにしたホテルの一泊の記録のみであった。
しかしながら、浮世はこれ地球旅行にすぎないのだと見なす彼女にとっては、これもまた旅。
それも旅先の外泊なのだ。
毎日が、ひいては人生が、旅なのである。
読者もそう了解して、更けていきまた明けていく都会の夜景を彼女の視点で楽しんだのであった。
よってこの新作も通常の概念であるところの『旅』を期待していると、足もとをすくわれてしまうことだろう。
いや、むしろ安心せよと。その方向で期待する必要はまったく無いのだと。
なんせ今回はそんな一泊旅行ですら、出てきやしねえんだから。
それでいて前回おおいに楽しませてくれた脱線も、脈略もなく突如としてファイルされた南国の写真たちも、ありゃしない。
頭からケツまで、一貫して欠陥住宅のトラブルについてなのであーる。
あれれ?
予想外に「マトモ」だぞおお!?
それが最初の感想だ。
前回こだわって手書きで貫いた執念のテキストも、今回は断わりもなくすべてタイピングで通しており。
(代わりに自由奔放なマウス文字が絶妙な風合いで、これよろしいわあ……)
このたびのココマコ本の新しさは、この「一貫」性なのである。
欠陥を理由にした家賃の値下げ交渉から始まって、新天地『新宿』に落ちつくまでの、法的手段もふくめた顛末が縷々としたココマコ調に綴られているのであった。
脱線が無い。
もはやココマコムン人とやらの説明すらも、無いんだ。
出るとこ出ようじゃねえかっ。
という底しれぬ憤怒が、彼女を『一貫』して突き動かしつづけた結果ではないだろうか。
怒りの発端はむろん住宅の欠陥だ。
安眠をさまたげる傾いた床だ。
そしてそれに対する大家のまるでヒトゴトのような対応であり、地元不動産屋の怠慢と不親切であり、事なかれで済まそうとする彼らの宿痾『狎れ合い』である。
田舎的コミュニティというのはそのあたり両刃の剣であって、内輪と見なせば人情にあふれた結束を生むが、よそ者と見なすやいなや、よってたかって村八分にしやがんのな。
むろん、最近では田舎であっても横のつながりというのは疎遠になりつつあるらしいが。
(その原因のひとつに『少子化』があるだろう。子供が減ることで地元密着型の少年団、子供会、運動会などが衰退し、村祭が閑散として、そこに付随するところの「集会する動機」と「機会」が消えゆこうとしている。もうひとつは文明の必然。帰結としての孤独化、もとい『ひとり化』だろう。)
根深いねええ。
やだねええ。
ではそのあたり、田舎ではなくたとえば都会。つまるところ下町の人情などとよばれるコミュニティではどうなのか。
ただね、思った。
所詮は賃貸身分の肩身のせまさなのではないかと。
都会だろうが田舎だろうが、根を張ることでそこに住む覚悟をしたものに対しては、一人前の扱いをするのではないかということ。
そこいくと根なし草や、生涯・いち旅人風情などは客人としてもてなしはすれども、地域構成員としては見なさず、よって風あたりが強くなるのではないかと。余談ながらもそう思うこの賃貸ボロアパート居住者なのであーる。
話をもどす。
そんなこんなで、今回のココマコ本はいつものココマコ調を土台にしつつも、実はヒジョーに『役に立つ』本なのであると。
アパートの更新期限がせまり、さすがのココマコムン人も焦燥したのか、火事場の馬鹿力よろしく動き出すところがドラマティックだ。
法的手段を決意し、模索し、検索して、アポとって、相談して、決着をつけにかかるその静かなる怒涛。
あいまあいまにお茶など喫しつつも、ついに本気を出す未来人なのであーる。
そして彼女の身に起った事ごとは、すべて「明日は我が身」として読者は共鳴できるのである。
ううううむ。
振りかえれば、単なる新宿への転居ではあった。
そこはあられもない。
んが、
思えば公私を行き来し、紆余曲折という道程を経た、悪路の踏破、つまり『旅』であったことを読者は知るのであーる。
最後にもくじを書き写しておきましょうか。
「やっぱり我慢できない欠陥住宅」
「直してもらうが全く直ってないじゃん」
「魔の不動産業者」
「裁判なるか!? 弁護士駆け込み」
「正義の味方の行政書士」
「駆け込み寺の新宿様」
「墓地の家と黒服」
「I LOVE 新宿」
追記。
旅本を読み終えて。
ニヒル牛2からの帰路、電車のなかで一冊目を読み始めて没入した。
おもえば去年もそうだった。
著者たちの技量にもよるのだが、旅本を読む作法のひとつとして『電車のなかで読む』のが最適であると実感した次第。
これはささやかな発見で、
ときに車窓から景色を眺め、他の乗客をそれとなく観察し、またページに目を戻す。
できれば各駅停車。
時間がゆるすなら、本と本のあいまに停車した駅に何も考えず下車して見る。
ぶらぶらする。
何もなくていい。
何もおこらなくてもいい。
もちろんおこってもいい。
お茶するなり、ふだんは立ち寄らないような店で食事するなり。
で、帰りの電車でその続きを読む。
これ、試してください。
おすすめの旅本のいただきかたです。
おっとその前に、まずはニヒル牛2へ。
旅の本展は期間限定のイベントで、人気の本は売り切れる可能性が大きいっすよ。
ほとんどが手製本なので開催中に追加補充されるかは、謎っす。
☾☀闇生☆☽