壁の言の葉

unlucky hero your key


 消防署で開かれている『上級救命講習』なるものを受講した。
 09時から17時。
 間に昼休憩1時間をはさんで。


 仕事のケービで、会社からの要請で受けたのである。
 2月の時点で年度末までの予約がいっぱいで、一般枠での申し込みとあいなった。
 この回の受講生は20名ほど。
 老若男女、多種多様な業界のひとが集まったようで、床に横たえられた研修用人形たちを囲んでパイプ椅子にかしこまったその風情は、どこか三谷幸喜の芝居の出だしのようではないか。
 もうね、そう思っちゃっただけで、キャラ立ちがすごいのね。みなさんの。


 熱心にメモをとり、質問しつつ、なおかつ社交的に他の受講生と接する女の人。ジーパンにトレーナー、化粧っけもない。んが、行動的な明るさに満ちている。恐らくは介護関係だろうか。
 

 遅れてきたスーツの中年。てっかてかにまとめたオールバックに磨き上げた革靴。それでいて腰が低く、汗っかき。青々とした髭の剃りあと。営業マンだろう。


 横町の御隠居のような初老の男性。ニットのベストとおそろいの帽子。口のなかでこにょこにょと自問自答する癖。


 90年代アイドルのような髪型。パイプ椅子も実演も、常に膝を閉じて座る細身のおネエ風おじさん。


 坊主頭。巨漢。作業着。幼児への応急処置のくだりになると前かがみになって、熱心に耳を傾ける。見たまま土木建築関係の人で、子持ちのパパだろう。


 昭和のアニメに出てきそうなビン底眼鏡のガリ勉女子。だれとも視線を合わさず、閉じ切っている。体力が無く、胸骨圧迫(心臓マッサージ)がうまく続かない。


 んで、あたしだ。
 夜勤明けで、帰宅する時間がなかった。
 おっさん臭まるだしで駆けつけた。
 カタジケナイ。
 三角巾実習の相方を務めてくれた、鋭角に切りそろえたまゆ毛の学生さん。
 はにかみながら、優しく接してくれて、
 カタジケナシ。
 そんでまたこのオッサン、夜勤に行かねばならんのだ。


 どーだ。
 いまにも喜劇がおっぱじまるような、そんな予感である。
 

 そして、
 そんな連中に囲まれて、目を閉じ、口を半開きにしたトルソーたち。
 どれも男型である。
 女型ではやはりまずいのか。
 その『やはり』とはなんなのか。
 てかやっぱ、この状況がなによりおもしろかった。


 何を思ふ。
 トルソーよ。
 
 
 講習は、人工呼吸、胸骨圧迫、三角巾、AEDの使用法など、人形や受講生同志を教材にしての訓練。
 受講後は認定章がもらえるが、三年に一度は更新しないといけないとのこと。
 この日の闇生、受講中の睡魔を恐れ『眠々打破』なるドリンクを試すが、効果てき面であった。
 一度も居眠りすることなく受講を終えた次第。
 むろん胸骨圧迫(心臓マッサージ)は体力がいるので、眠気などふっとんでしまうのだが。


 本物の子供だとしたら、と感情移入して人工呼吸に取り組んだ幼児型トルソー。
 終えるやいなや、講師はその首根っこをつかんで回収してました。






 胸骨圧迫と人工呼吸。そしてAED
 いつかのもしものために、先にシミレーションとして体験しておくことに、意味があると思うよ。
 地元の消防署に問い合わせを。
 受講費は2,600円でした。




 ☾☀闇生☆☽