はて、思い出したのはどんな拍子だったろう。
とんと失念していた音楽の記憶がよみがえって、猛烈に聴きたくなった。
積み上げたCDの山の奥地。
その寒村。
しばらく距離を置いていたJAZZ関連のあたりを深夜にがさがさと漁る。
こういう場合、ぞくぞくと発掘されるジャケ写に、
あらぁ、久しぶりぃ。寄ってかなぁい?
てな感じに誘惑されて、なかなか本命に辿り着けないというもの。
いまはダメ。あとでね、と泣く泣く道草を拒み。
埃を吹き払い。
汗みどろになって、未明に再会を果たした一途なおっさんなのであーる。
『川下直広&山崎弘一DUO I Guess Everything Reminds You of Something』
地底RECORDSなんてとこのB11Fというレーベルから出てるシロモノ。
インディーズだろうか。
買ったのはタワーレコードでか。
丸井の地下にあったVerginだったか。
あるいはディスクユニオンのJazz館か。
いずれにせよ新宿だったのに違いなく。
試聴コーナーに取り上げられていたか、その時店内に流れていたかでめぐり会ったはずだ。
となれば新作としての購入だろう。
クレジットには1997とあるではないか。
記録は変わらずそこにありつづけていたのだ。あたしなんかに構わず。
去っていくのは生きている方である。
有体に言って歳をとったと。
けど、音楽は変わらない。
さっそく聴いてみて、それを痛感するのだな。
全編サックスとベースのデュオのみ。
そこが当時の自分には新鮮だった。
渋かった。
しびれちゃった。
けれども実を言えば、こういう骨太にブロウしまくってビブラートを効かせるサックスのプレイスタイルは、苦手だったのだ。それまでは。
今でもそうだが。
どうしてかド演歌を連想してしまうのね。
都はるみの代表曲『あんこ椿』の「あぁんこぉぉ〜♪」と唸りコブシを効かせるあそこと、かぶっちゃう。
良くも悪くもしみったれた昭和の風情がよみがえる。
不良っぽさが濃すぎて、なぜかしら恥ずかしくなる。
で、チンドン屋とか。
カトちゃんのやるストリップ「ちょっとだけよ」を思い出しちゃうのだ。
あれで流れる『タブー』という曲も、たしかそんなサックスのヴァージョンだったはずだ。
いやらしいんだ。音が。
笑っちゃうくらいにトゥーマッチ。
ある意味お下品。
このアルバムでもベサメムーチョなんてスタンダードをやっているけれど、そのマイナー曲調も相まってなおさら「ちょっとだけよ」になってしまうのであーる。
これはもうピンクのスポットライトなのであーる。いまどきね。
だもんで当時働いていたビデオ屋でエンドレスにかけ続けたアルバムではあるのだが、ビートルズのカバー『Yesterday』と『Besame Mucho』ばかりは、問答無用にスキップさせていただいていた。
このアルバムの聴きどころはキメまくりでぐいぐい引っ張る冒頭の『AFRICA#1』でしょう。
こういうのはブロウしまくってくださいと。
ぶっといベースでぼんぼんやってくださいと。
ワルなおっさんの背中を拝ませてくださいと。
それとスローで抒情的なテーマながらも雄大な曲想にブロウが似合う『Pharaoh』。
なによりベースとサックスのみという青い静寂あっての熱きブロウなのだろう。ビブラートなのだろう。
と気づく。
ルーツをたどればコールマン・ホーキンスからベン・ウェブスターへと受け継がれた系統になるのだろうね。
などと、つらつら。
I Guess Everything Reminds You of Something.
ヘミングウェイの遺した短編のタイトルだそうで。
邦題は『何を見ても何かを思い出す』とのこと。
☾☀闇生☆☽