結局、なんのことはない。
ハケンに出されたというだけのことらしい。
何が監督補助だろう。ものは言いようというやつである。
粉塵で煙るなか、
防塵マスクとメガネ、
ヘルメットにつけたヘッドライトの明かりをたよりに、
安靴の底を引きずり引きずり、地底の闇をひたすら歩き続けている次第。
ケータイの電波は届かず、
無線も使わせてもらえず、
もし、闇の底で倒れてもきっと誰にも気づかれない。
仮設トイレの絶対数が足りず、
小便用トイレには休憩ごとに長蛇の列。
我慢しきれなくなった連中が大便用バイオトイレで済ませるものだから頻繁に故障する。
その悪臭を嗅ぎながら粉塵の積もるプレハブ詰所で昼食を。
足の踏み場にも困るほど、職人でごった返すタコ部屋である。
前任のハケンは二週間で辞めていったという。
正社員曰く、
「嫌な仕事はやらない、だなんてあいつら簡単な人生だよ」
とな。
なるほど。
けれど、なんの保障もないまま、固定された安賃金で派遣されるのだ。
社員とは違う。
怪我したら、アウト。
休んでもアウト。
頑張ろうが、そこそこにしておこうが、評価もされないのである。
しようともしない。
ねぎらいの言葉すらない。
ならぱそうなるだろう。
安く使える土工さん。
頑張れば便利な奴という、それだけ。
機転を利かせて動いた奴が馬鹿をみるそんな環境で、その言い草はないだろうと思う。
すくなくともハケンの利便性・廉価性にたよる側が言うな。
どうりで挨拶さえ返さないわけである。
そりゃみんな辞めるって。
賃金や待遇よりも、最終的にはニンゲン関係なんだから、仕事ってさ。
たしかにケービの現場よりは手当は付くよ。
んが、
誇張ではなく雀の涙なのである。
牛丼大盛り一杯ぶんくらい。
それで今日は全身の筋肉痛。
で世間話ひとつ。
冗談ひとつも交わされない。
粉塵にはヒ素が含まれているとも言う。
だもんで、あれだ。あまりにはしたなくて嫌いな言葉だったが、この度ばかりはついにこぼしてしまったのだ。
「割に合わねえ」と。
そもそもやりたいなどと一言も言っていない仕事なのにね。
警備の二号業務から離れたくないと再三断ったにも関わらず、拝み倒されてなし崩し的に受けたに過ぎない。
写真だと綺麗でしょ。
あのねあたくしにも工場萌えとかあります。
そんな言葉もなかったころからテクノデリックにやられたクチですから。
だから部外者として見学したり探検するにはわくわくします。
ええ。
しましょうよ。
ダクトの曲線に。
リドリー・スコットの描く近未来を感じましょうよ。
その少年心で、どうにかいまのところ正気を保っている次第でございます。
嗚呼、
誘導灯、振りてえ。
それもごっついのぶんぶん振りてえ。
オーライ言いてえ。
いっそ裏声で歌うように叫びてえ。
帰り道。
ふと立ち寄った書店でこんなタイトルを目にする。
置
か
れ
た
場
所
で
咲
き
な
さ
い。
地底でってか。
ナウシカじゃあるまいし。
えらくウケた。
☾☀闇生☆☽
安部公房の『箱舟さくら丸』を思い出すね。