広瀬達也作・演出、
東京ギヤマン堂 第9回公演『トウガタツ』阿佐ヶ谷シアターシャインにて
11/25 千秋楽
「日本で二番目に高いトウガタツ」町のパズルのような、コントのような連作短編集。」(ポスターより)
観劇後の後味、すこぶる良し。
たとえばプロ野球史にのこる通算ホームラン数一位は王貞治だ。
フラミンゴ打法。
日本刀での素振り。
現役時代の背番号は1で、愛称はワンちゃんだった。
言わずと知れたお菓子のホームラン王も兼ねる彼だ。
そのお菓子を食べたことがなくともワンちゃんはたいがいが知っている。
んが、
さて二位となるといったい何人の人がくわしく答えられるのだろう。
といった関係性にあるのが、この芝居の二番目の塔なのである。
DHCが膨大にかかえているよくわからん各部門の第一位は嫌でも報らされるが、はてそれぞれの二位はというと、まず知らない。
知ろうとも思わない。
野球なら、一位を目指した結果論での二位であり、三位であり、それぞれの順位であったりするわけなのだが、この塔ははなから二番目ねらいである。
哀しいではないか。
完成したところで、なんなんだと。
だれが盛り上がるんだと。
いや、
盛り上がらぬままに地元住人たちはそれぞれに等身大の日々をこなし、時に伸びてゆく塔を見上げては、会話のとっかかりにしたりしているわけで。
知らぬ間につながり、かろうじて関係をもつのであった。
トウガ建たねば見上げることもなかった同じ天を、なんとはなしに見ているのである。
全八話構成。
その頭とケツはプロローグとエピローグの関係といってよく、
それらがあいだの二話〜七話をサンドすることで、これら短編たちをひと繋がりの物語として帰結させている。
アイディアはポスターのコピーがすべて語っているとおりであり。
一番高いのではなくあえて二番目というたったそれだけで、世間の扱いがこうも違うという、
なんだろう、
並、扱い。
それを自覚してか塔自身、腰が低いのだ。
そこがどうにも憎めない。
この芝居は、そのおかしくもほろりと苦い塔のおひざ元に繰り広げられる、下町のブルースなのであーる。
五人姉妹の住むマンション(第二話)。
なんとその五人全員がひきこもりである。
いまどきネットに没頭する訳でもなく、
母のすねをかじり、日がな一日クロスワードパズルなんぞで暇をつぶしているばかりだ。
その日、姉妹でよってたかっていい加減に解いたパズルの答えがこれだった。
ト、ウ、ガ、タ、ツ。
たしかに間違えているはずなのに、奇しくも近所に塔が建つ。
その姉妹のひとりに恋してしまい、
盗聴するあまりに自分も引きこもってしまった男が階下には住んでいて(第六話)。
心機一転、とばかりに彼は就職活動を始めようとするのだが。
その面接シミュレーションをたすけるべくどこからともなく現われるのが、疑似体験戦士ヴァーチャルマンたちだ。
男はヴァーチャルマン人形製造メーカーでの面接を、強制的に疑似体験させられるはめになる。
戦隊スタイルをもちながら、それぞれが固有の名前を持たないヴァーチャルマンそのものが果たして現実なのか妄想なのか、いたって曖昧なのだが。
ヴァーチャルマン人形はたしかに存在し、
その人形をつかったおかしな礼拝をする外国人までもが、塔の元には存在している(第三話)。
自宅に上がり込んできた入国管理官から逃れようとした彼、窓から奇妙な光景を目にしてしまった。
「カメが逃げたぞー!」
本来、のろいはずのカメを全速力で追う人たち。
このでかくて早いカメらしからぬカメ。
絶滅危惧種に指定されているこの珍しい生き物の闇取引を検挙しようと、ひとりの刑事が内偵をすすめていた。
取引の日時を盗み聞きした男が殺されている。
刑事は事件の解決を叔母のミズ・マーダラの推理に託し(第五話)。
マーダラは、残されたキーワードから取引の場所は塔の影にちなんでいると推理するのだが……。
とまあ、そんな感じに各話は関連してゆく仕掛けである。
五姉妹が無理に使うギャル語のあたりは、まだ客があったまっておらず。
というかこの芝居のノリが、把握できておらず。
つづく入国管理官でクスリとはくるが、
塔のガイドを育成する講師とガイドのあたりは、あまり記憶に残らないほどで。
次のミズ・マーダラでやっと引きつけられた次第。
これが意外や意外、ほろりと泣かせるズルイ出来でござった。
両隣の女性客はうるうるきていたご様子。
なのをこのおっさんもうるうるしつつ確認したぞと。
ここから一変してヴァーチャルマンのバカバカしさ、賑々しさへとたたみかけるリズム感は心地良く。
引きこもり男を演じた荻山恭規、光ってました。
たぶん役者さんもみんなノッてたんじゃないかと思う。椅子取りゲームに。
この二つのノリと振れ幅がもっと早くにあればと、惜しい気もしている。
直後のマリオ兄弟の話がいまひとつだっただけに、際立ってしまったのもあるだろう。
それと芝居のお約束なのだろうが、
身内ネタというか、楽屋オチのような、やんちゃなアドリヴっぽいくだりは、もうちょっと整理できたかもしれない。
取捨選択である。
あれをいれなくとも、直球でぜんぜんイケル気がするのだ。
マーダラとヴァーチャルマンをクライマックスと捉えて、その前後を絞り込めば、もっとメリハリが出るはず。
すれば物語のプロポーションが、
ボディラインが、
愛しきくびれができることだろう。
DHCのなんとか部門で一位にもなれる。
贅肉をとれば、少なくとも十分は縮められたと思う。
あるいはもっとリハに時間が割ければ、自然と間がつまってシャープにもなるのだろうが。
とのたまった勢いで、エラソーに続けようか。
あえて連作短編スタイルではなく、一本にしてもよかったのではないだろうかと。
各話のつながりがセリフ上のことばかりなのはもったいない。
せっかくひとり何役も兼任しているのだから、エピソードの壁を取っ払って、登場人物が入り乱れてもいい。
かき混ぜてしまえ。
最後に『塔』について。
演者たちはどのエピソードでも、塔の建つ方角を客席側に見立てている。
これがやはり演出として正解なのだろうか。
話によっては上手側にあるとしたり、
また違う話では下手側にあるとしてみたり、
はたまた演者が客席に背を向けて、観客とともに塔を見上げるというくだりも考えられる。
飛行中のヘリコプターから眼下にのぞむとういう手だってあるし。
建築中の塔のなかでの話があってもいい。
そうすることで、それぞれのエピソードの現場と塔の位置関係が提示され、この物語世界に広がりが生まれたことだろう。
また塔はここでは擬人化されもする。
ポスターにあるようなかぶりもので演じられる。
して独白する。
二番目であるという存在価値を承知した、どこか憎めない謙虚な男として。
気になったのは、このかぶり物。
各話の幕間は暗転されるのだが、これを活かせないかと思った。
せっかくの高い塔である。
航空障害灯があっていい。
あの赤い明滅がクレーンの先や塔の先端にあったなら、暗転時に活きて、面白いと思う。
◆キャスト◆
宮本欒
宮崎トモミ
広瀬達也
小澤庸子
佐々木高史(嬉劇亭friendship)
荻山恭規(劇団神馬)
ささきさちえ(嬉劇亭friendship)
神山克己
これを機に、また定期的に公演をしてほしいものである。
なんせ後味が良かった。
もっと宣伝されていいでしょ。
てか、出演者、関係者、宣伝しなさすぎ。
☾☀闇生☆☽
追記。
わずか30席という規模での観劇は初めてだった。
あまりに濃密だ。