壁の言の葉

unlucky hero your key


 ものは試しとばかりに始めてみた例の一日一食。
 八日目の朝を迎えたぞと。
 どうやら峠は越した感触。
 最初の二日間がちょっと違和感が強かったかな。
 ストレスとまではいわないけれど「今日は食べてないんだ」という概念というのか、そういう考えがやたらと働きかけてきた。
 もともと「腹減った〜」をポジティヴにとらえる訓練は積んでいたので。
 はは。訓練、てか。
 まあ、それほど大げさに言うことでもないのだけど。
 飴なめて凌いだのだ。
 そもそも今回のは、減量が目的ではないのだし。
 現在の体重は実感的にベストなのだし。
 もう何年も前だが、もともと173cm63kから激太りして83kまでやっちまったことがある。
 そのときは、かなり凹んだ。
 肥った分だけ凹んだ。
 自分の足の爪を切るのが難儀な自分にウケタ。
 階段でふうふう言ってる自分にウケタ。
 友人に百貫デブと言われて、その語彙の古めかしさに哀しんで、
 でまた凹んだ。
 それから食をかえて運動して73K時代が続き。
 どんぶりを標準のお茶碗に買い替えて。
 ご飯を一日一合。半分を朝食。残りを昼の握り飯にと決めてからまた減った。
 朝はそのご飯に納豆。して野菜いろいろてんこ盛り味噌汁のみ。
 昼はその握り飯にゆで卵一個。ときどき野菜ジュース。
 ひとりきりの店番という、来客の合い間をみて食事をする身分だったので、そうと決めてからは楽になった。
 それまではその待遇にイライラしてもいたのだ。
 夜はタンパク質の豊富な一品を肴にお酒を頂き。あとは乾き物を何品か。
 いつのまにか65kに。
 まあこんなもんで良しだろうと思う。あたくし程度のおっさんの燃費は。
 良しとしてほしい。
 

 で、


 じゃあなんでまた一日一食なんていう怪しげな流行に手を伸ばしているのかというと。
 まあ、はっきり言えば『遊び』なんです。
 人間、たった一日食べないからといって、死ぬわけじゃなし。
 一食は食べるわけですから。
 じゃあちょっくらやってみっぺという軽薄を楽しんでいるところなのだ。
 食欲に翻弄されて生きていくのか。
 食欲をコントロールしてやりくりするのか。
 さあどっち?
 そこで、ちょっと自分の食欲と遊んでやろうかと企んだ。


 気になったのは朝、食べないとぼんやりしてしまうのではというところ。
 それが最初の二日間は確かにあった。
 飴舐めると、ちょっと冴えるみたいな。
 冴えるったって、たいしたもんじゃないですが。
 で、三日目はそれを踏まえて朝一に果汁百%ジュースだけ飲んでみた。
 これはかなりいい。
 なにより、朝に自炊する必要が無くなった。
 これで、食事の支度と食事とかたずけ、それと弁当の用意という煩わしい手間暇がなくなって、時間が増えた。
 これがかなりの収穫で。
 けど問題は、いままでの食事でベストだったのだから、それを夜の一食でどう挽回するか。
 これ以上痩せたくはない。
 馬鹿食いは、哀しいし。
 現に考えていたほどに大食いはできないのであーる。
 これから試行錯誤が続くのかな。


 ちなみに昨日は一合をふたつの握り飯にして冷蔵庫にしまっておいた。
 帰宅後それをあっためて、うりゃっと潰して、レトルトのパスタソースをかけてワインで頂くという暴挙に。
 ううむ。ワイルドだわあ。
 てか雑だわあ。
 犬の飯みたい。
 人には見せられんが、炭水化物だものいいじゃんかと。
 それで胃袋的には充分なのだが、
 それ以前の食事バランスを思い出して、食後に野菜てんこ盛り味噌汁で〆てやった。
 結局のところ、何がやりたいんだかわからん食卓風景であーる。
 どうだ。
 遊んでるだろ?




 同僚に長年ダイエットに失敗しつづけている人がいる。
 どうも自分に合った方法を見つけようとしている。
 それはいいのだが、それを外に求めてしまうのだ。
 なんたらブートキャンプだの、キャベツダイエットだの。
 食生活をひとつも譲歩しないで黒ウーロン茶のみに希望を託したり。
 自宅にはロデオマシーンやらの器具が何台もほったらかしになっている事実を客観的にとらえようとしない。
 システムが悪い、自分に合わない、としてどれもこれも飽きてやめている。
 それだけ失敗しつづけたのだから、問題はシステムではなく、自分の心がけのほうにあると考えればいいのに、そうしない。
 まず、それまでの食生活をひとつも譲歩せずに、体重を落とそうとするところに問題があって。
 さながら一切の公共工事に不満をもちながら、道路電気ガス水道の恩恵はちゃっかりいただこうとする輩のように。
 その根本にそれまでの「喰いたいときに喰いたい分だけ喰う」生活をゼロ基準と考えているフシがあるようなのだ。
 ダイエットなるものは、そのゼロ基準からマイナスにしていく作業であると。
 そうではなくて、
 なにも食べられない状態をゼロ基準とするべきで。
 して、そこから口にするものをプラスで勘定すべきではないのかと思う。
 あ。汗かいたから水分足してやろう、とかね。
 今日はタンパク質足りてないっぽいぞ。ちょっと摂ってやろう、とかね。
 
 
 

 念のため断わっておきますが、
 痩せてることが善でその逆が悪だとは少しも思っていません。
 ダイエットが必ずしも美徳とは限らないし。
 鼻息も荒々しくダイエットにあさましくなっているのもどうかと思うし。
 怖いし。
 あたしはメタボなんつー概念も、たかだかここ数年で出て来た眉つばもんとして眺めております。
 自分のコンディションに納得がいってるならそれでいいんじゃないの?
 ただし、自分のことなのだから、自分でコントロールできるほうが楽しいでしょう。
 車を乗りこなすように。
 食欲にコントロールされてるのは不自由で。
 食欲をコントロールしてあげてるほうが自由じゃないかなと。


 
 
 
 
 
 
 ☾☀闇生☆☽

 
 
 ちなみに作家の森博嗣も一日一食にしてもう何十年にもなるとのこと。
 胃の弱い自分にあっているらしいとのことで、一食にしてからは医者いらずとか。
 そんな彼もその食のスタイルを他人に薦めてはいないのだ。