壁の言の葉

unlucky hero your key


 来週はどでかい車両の誘導あり。
 70トンのレッカーと、トレーラー数台。
 それらの交差点での転回と現場へのバック誘導。
 大きさはというと、
 六時半以降は公道を走ってはいけないというクラスだ。
 おいおい、どんなんだよと。
 だもんで、遅くても四時起き。
 五時には家を出ていないとアウトだ。
 いまから少し緊張して、脳内シュミレーションをしている。
 信号のタイミングをみて、トレーラーが頭をつっこむ車線は、停止線のはるか手前で停止をかけねばならぬ。
 万が一突破されて通常の停止線で停止されたら、トレーラーが曲がりきれないのでね。
 したら、次の青まで平謝りで通行止めになる。
 そうなりゃこっちゃ明確に、そして堂々とすんませんのゼスチャーだ。
 すんませんの鬼になるよ。あたしゃ。
 問題はドライバーの死角にあたる歩道のガードポールと、
 やっぱ小走り歩行者と、すりぬけ自転車なんだよなあ。


 まず、現場ゲートに対して車体が完全に垂直になるまで頭をつっこませる。
 バック誘導の前に、ポールの位置を大声でドライバーに示すと。
 誘導中、歩道の確認は終始おこたらない。
 なんせすぐに止まれるサイズじゃないし、
 ましてや交差点の交通を一時的に遮断しているわけで。
 接近者があれば、お待ちいただくしかない。
 
 
 いそいでるから〜!


 と叫んで突破する名物おばさんがひとりいるんだ。
 気をつけんと。


 

 
 追記。


 ひょっこり休日ができたので、いつもの床屋へ行く。
 景気をうかがうと、去年の後半あたりから下降しているのだという。
 大将曰く、常連さんが千円カットに流れはじめているのだとか。
 勉強がてら体験に行ったところ、工程をかいつまんで時間を短縮しているそうで。
 通常ハサミで調整するところを、バリカンのアタッチメントを細かく換えて対処しているそうな。
 ともかくも回転率をあげようというシステムなのだろう。
 会話もなく、ひたすら合理合理と。
 そんな話から、床屋をやろうとする人が減っているという話になり。
 カリスマ美容師ブーム以降みんなそっちに行ってしまったので、男の短髪ができる人が減っているのだとか。
 つまり、剃刀があつかえない。
 そんな職人が有名美容店を転々としたあげくに、やがて千円カットに落ち着いたのではとの考察でござった。


 なにより、
 ライバル業種への悪口にはおちいらずに、
 自身の技術への誇りを感じさせる職人の話というのは、聞いていて気持ちがよい。
 ケービ屋もそうでね。
 ゲートの前で立っているだけ、に見えても大手の現場でのそれはちがうからね。
 搬入出の誘導は最低限のことで。
 工事の工程も把握して、搬入出の車両のサイズ、荷姿、時間割をおそくとも前日には提出させて受け取っているし。
 それは入場退場の方向まで指定してあって。
 それにともなう警備面での諸問題も検討して、その日ごとのあたま数と配置やらを申請するし。
 持ち場に必要とされる誘導能力に応じて、本部に希望隊員を指名しておくし。
 問題があれば監督に談判して、変更を願う。
 場合によっては会議で元請けとやりあいもする。コトは安全に関する事態なのだ。 
 前日までにアポの無かった業者や入館証のない職人は追い返す。
 だもんで全業者が警備の職長とマメにコンタクトをとる。
 つまり業者間や、元請けと下請け間の報・連・相の交通整理もやっているのね。
 というか、そういう流れにしなければ安全でスムーズな工事は実現しませんよと申し立てて、「ああなるほど。ガードマンの言ったとおりだ」といった具合に信頼を積み重ね、そんな対人関係のなかでルールを構築していくんですけどね。できる警備員は。ただ立っているだけに見えてさ。
 そういう隊員は大概『さん』付けの名前で呼ばれてます。
 十把ひとからげの「ガードマンさん」呼ばわりはされない。
 むろん立っているだけのやつもいますけどね。
 はい。
 

 あたしにはまだそこまでできまへん。
 
 
 
  




 ☾☀闇生☆☽