Mモノあるか?
電話でそんな問い合わせをいただいて、しどろもどろになった覚えがある。
いわずもがな、エロDVD屋での勤務中のことであーる。
はて。Mとは、なんぞや。
状況から鑑みるに、
SMでいうところのMであろうことは予想できる。
まちがってもサイズのことではないだろう。
問題はMいるところ必ずやSがいるわけであり。
逆もまた然りでござると。
双方はいわば光と影の関係であり。
梅にウグイス。
プリンにカラメル。
ショーケーキにいちご。
野糞に銀蠅のごとしといえよう。
どちらか一方だけが登場するものは、そうは無い。
さてMモノだ。
ううむ。
そこで極々大雑把に、大和撫子がMとして出演しているものなのか。
あるいは雄雄しき日本男児が、こづかれているものなのかを問うてみた。
するとどうだろう。
お叱りを頂いてしまったではないの。
「あんな、ニーチャン。エムゆーたらフツーエム男のことゆーんや。覚えといて」
すんません。
知りませんでした。
けどね、けどね。
仮にもMではないか。
マゾたるものが、カテゴリー名に冠して燦然と輝いてはいかんだろ、といいたい。
主観のありようはどうであれだ、
おまえが主人公でどうすんだと。
Sさんに失礼だろと。
むろんこのジャンル、こってこての女王さまモノばかりではない。
いまや王政は衰退の一途をたどり、
女子校生やOLらの平民が、文字通り男を尻に敷いているというのが現状だ。
だもんでそれらをひっくるめてあたしらはこのジャンルをこう呼んでいる。
ミストレス系と。
上位は責め手でござるという意味でね。
ともかくそのお客さま、のっけからキレ気味であった。
それも、んだこらてめえ調のテンションだ。
だから引っ込みがつかないのだろう。
そのノリをキープしつつ彼はこうも続けるのだ。
「おたくさ、山田亜美女王さまのやつ、なにがあんの?」
繰り返す。
野郎の、んだこらてめえ節である。
それで「女王さま」づけは、あぶない。
吹いちゃうって。
こらえつつ検索して店頭にある作品名をいうと「それ持ってる」ときたもんだ。
「んじゃ、〇〇女王さまのは?」
次から次へと列挙される女王さまの名。
ああ、ツッコミたい。
Mが主人を二股すんなよと。
で、どれもこれもみんな「それ持ってるわ」のひと言で却下されていく。
却下すんな。女王さまを。
買い占めろ。買い占めろ。
納税、納税。
とまあ、
さんざん問い合わせた挙句、彼はポツリとこう慨嘆するのだった。
「もう全部買うてしもーたのかもしれへんなあ……」
――沈黙。
何? 何? この間。
どんなかえしを待たれてるの?
仕方なく、やり場のないM男の苛立ちにやさしく同情してやるあたくしだ。
「そのうちに、きっと新作が出ますよ。気長に待ちましょ。ね」
なにやってんだ、おれ。
そこまで好きなら、もう直接お店に合い行っちゃえよ。
スキって言っちゃえよ。
その言葉がノドまで出かかっていた。
んが、ぐっとこらえましたとも。
仕事には、
割に合う、合わないの尺度では測りきれない事が、少なくない。
☾☀闇生☆☽