壁の言の葉

unlucky hero your key

『英国王のスピーチ』感想。

英国王のスピーチ


 『英国王のスピーチ』DVDにて


 のちに英国王ジョージ六世となったヨーク公が、自らの吃音癖を克服してゆく物語。
 それだけ。
 予告にあるとおりである。


 以下、ネタバレあらすじ。




 ジョージ五世には三人の息子がおり、
 長男が人妻キラーで遊び人のデイビッド(ガイ・ピアース)。
 二男がこのヨーク公と呼ばれた吃音(どもり)のバーティ(コリン・ファース)。
 そして末弟に、てんかんに悩んだジョニーがあるが、彼は13歳ですでに逝去している。
 おりしもヒトラー率いるナチスドイツが台頭しており。
 そんな世界情勢ゆえに父は、尻の軽い女とばかり交際する長男にイギリスの次代を託すのをためらう。
 飾り立てた軍馬にまたがり、
 勲章にかがやく軍服に身をつつんでふんぞり返っていればそれで済むような時代は去っていて。
 国民の人気が王室を左右していた。
 ということは、
 裏返せば、王室のありかたが国の、ひいては国民の安寧に影響をおよぼすということだ。
 ところが頼みの二男は幼いころからの吃音で、
 そのせいで小心者で、
 その反動から癇癪持ちでと。ようするに王にふさわしい人物ではない。
 父はそれに憤る。
「しゃきっとせいっ」
 いわれるでもない。
 バーティ自身が心得てもいた。ぼくには王になる資格がないと。
 時勢はラジオがマスメディアの主軸となりつつある。
 ヒトラーがそうであったように、スピーチの能力こそが人の心をゆさぶり、動かしている。
 ならばせめてスピーチを、
 吃音を、良くしたい。
 人の上に立つものとして。
 王室に生きるものとして。
 幾度となく医師による矯正も試みてきたが、どれも効果が無く。
 新しい医師を取り立てては癇癪をおこす日々。そのことごとくを馘首にしてきている。
 そこで、市井の売れない役者であり、吃音矯正のトレーナーでもあるオーストラリア人、ドクター・ライオネル(ジェフリー・ラッシュ)に白羽の矢が立つのだった。
 ドクター曰く、


 生まれつきの吃音者などいない。
 大音量の音楽をヘッドホンで聴きながら音読すると、どもらない。
 吃音癖の者でも、歌はどもらない。などなど。


 ドクターはさっそく独自の矯正メニューをバーティに与える。
 しかし小心者でありながら王家という特権階級意識の強いバーティだ。
「たかだか」ビール職人の息子というドクターに、なかなか打ち解けようとはしない。
 プライドが邪魔をする。
 それでも根気よく付き合ううちに、ドクターはセラピーよろしくバーティの心の澱を汲み出すことに成功する。
 そこに見出したのは、利き腕の無理な矯正。O脚の矯正。乳母からの3年にわたるイジメ。ババババ、バーティという兄からのからかい文句。秘匿された弟の死などのいわゆるトラウマであった。
 やがて父が死去し、
 母の指名により王を継いだ兄は王位をすてて愛に奔り、
 バーティが王位を継ぐことになるのだが、ナチスドイツへの宣戦布告のスピーチの責務が、迫ってくる。
 さてさて、どうするバーティ。
 国民が固唾をのんで耳を寄せるラジオの生放送で、彼は一世一代のスピーチに挑むのだった。


 感想として。
 音楽を聴きながら音読する云々には関心&感心。
 トラウマが吃音の原因だ云々も、ベタの範疇だし、
 平民と貴族の交流によるあれこれも、まあね。
 レッスンで、王子に卑猥な言葉を叫ばせるなどは、あきらかにウケ狙いだろうが。卑猥な言葉そのものよりも、その狙いが露骨で、つまらない。
 神仏染み込んだ日本人にとってFU*Kという言葉は、頭で理解しているものなので、あちらのように生理的な好悪に直接うったえかけるものではない。
 『スカーフェイス』でパチーノが何回F*CKと言ったかなんて問題はどうでもいいが、あちらではそれをして嫌悪したり、あるいは囃し立てたりして溜飲をざけるという。
 そうですか。といった程度だわな。
 ただ妙な仁徳者としてジョージ六世を描かなかった点は、着目しておこう。
 国民を、最後まで平民(コモンマン)呼ばわりしているのが、面白い。
 『シャイン』で一躍有名になったジェフリー・ラッシュ。相変わらず、いいね。
 バーティの妻役の大竹しのぶ ヘレナ・ボナム・カーターもなかなかでした。
 冒頭のスピーチのシーンで、観客が脱帽しないが、あれはあれで正解なのかな?
 ちょっと気になった。
 あと、レッスン室のだだっ広さと、壁の汚れが素敵だわな。



 ☾☀闇生☆☽