壁の言の葉

unlucky hero your key


 まだ暗いうちから自転車をこいで、近所の神社で初詣をすませる。思った通り、晦日深夜からつづいたであろう年越しの喧騒はやんでおり。去年のお札を焼きあかした境内の炎も、いまはもう闇に沈んだほのかな炭火になり果てていて。そこで静かに暖をとってたそがれている人影がひとつと。あとはなんかはしゃいじゃった中学生の男女混合グループのなかのアホちんが、お参りの目的もどこへやらといった体で奇声をあげているくらい。きっとわけもなく楽しくてしょうがないのだ。みんないるし。女の子もいるし。手っ取り早くポジションを得るには、ひょうきんになるほかないと。うけてはいても、決してモテはしないという。なんだろう。ブルースだ。中坊ってのはあんなもんだったよなあ、と。ましてや徹夜でハイになってんだろうしなあ、と。思いやる。数年後にはそんなことできなくなるのだ。いまのうちにあげたいだけ奇声をあげとけばいい。いつの日か思い出していやあな汗かくから。笑わせていたんじゃない。嗤われていたんだって。気づく。森の中だけあって、連中が去った後はことのほか静かになった。闇のどこかで夜明けを待つ鳥の声が。お守り売りの巫女さんが、おそろくは学生アルバイトなのだろうが、物静かにおちついた風情なので、こちらもまたよろし。お守りを説明をするその背後で神主のおっさんが、おっさんまるだしの解放感いっぱいのゲップをかまし。たてつづけにこれまたおっさんたれながしの大あくびをしてのけるという。なんというか。事態に。巫女さん、思わず言葉をつまらせて。むろんあたしもびっくらこいた。正月だもんな。おっさんだもんな。正月のおっさんは解放感しかないもんな。けど出くわしてしまったほうとしてはノーサンキュー。まぎれもない。ただならない。しまつにおえない。ケービの任務中の携帯用として交通安全のと、五臓六腑守りましょう的なやつをひとつずつ、なんだか仕方なあく買う。このカネとお賽銭でちょっとしたラーメン食えたよね。なんてことが頭をよぎる。マジかよ。元日から煩悩まる出しかよ。あとはいつものように自炊して、電車に乗って、エロ屋へ出勤して、時折なだれ込んでくる冷やかしの団体さんのあげる「ひゃあ」だの「すげえ」だの「マジかよマジかよ」だの「あひゃひゃひゃひゃ」といった奇声に、今ひとりでたえてますと。ひとりぼっちでたえてますと。うつむいて見れば今日の靴下。はかなくも踵がレース状になっておる。ああ。今日も生きんのか。そんなしょうもないあたしだが。

















 今年もよろぴく。





 ☾☀闇生☆☽