壁の言の葉

unlucky hero your key


 ジム・ジャームッシュ監督作『リミッツ・オブ・コントロール』DVDにて






 こういうのに長々とした感想を書くのは、野暮天というものだろう。
 はて。
 こういうの、とはどういうのかというと、
 いわゆる右脳的な、というやつを言いたいわけで。
 とどのつまりストーリーはおぼろで、
 それぞれのエピソードは理屈ではなくイメージによってつながれており、
 セリフは観念的なのであーる。
 となればだ、
 これ、ネタバレのしようもないのだな。
 したところで、痛くもかゆくもないだろうし。
 その意味において、純粋すぎるほどに映画らしい映画であるとはいえるだろう。


 我こそは偉大。そう思うやつを、葬れ。


 名もなき男がうけた指令は、たったそれだけである。
 その、手がかりともいえない手がかりを頼りに、彼はスペイン中をひとりで旅するのだ。
 行く先々に現れるのは謎めいたコードネームの仲間たち。
 男は彼らと暗号をやり取りしては、次の情報をくれる仲間を探して彷徨う。
 ひとり、決まってふたつのカップエスプレッソをたしなみ、
 ヨガだか武道だかの呼吸法で静かに瞑想し、
 美術館に立ち寄っては、また彷徨う。
 この男の日々は、その延々なる反復なのである。
 あるいは、それが人生というものなのか。


 加えて彼は、語らない。


 なんらかのシンボライズを匂わせるキャラクター、情報提供者のおしゃべりにじっと耳を傾けているだけだ。
 この手のロード・ムービーにありがちなモノローグすら、なかった。
 主人公の自問の代わりにあるのは、
 観客である私に、映画が自問を求めてくる、――間。
 もしくは、沈黙。
 余白。


 となれば、
 それこそが退屈といえようか。
 まるで人生のように、とびきり充実した退屈であると。


 一部の感想に見られるこの映画の眠さの正体は、つまりはそこなのだな。


 んなこたジャームッシュ好きなら覚悟の上だろうから、別に意外でもなんでもないことで。
 出来不出来、
 好き嫌い、はともかくとして彼固有のダンディズムはここでも健在なのだし。
 ジャームッシュを観たくなるのは、それを嗅ぎたくなるのと同じことなのであーる。


 撮影はクリストファー・ドイル
 色彩に配慮があって、何度も感嘆させられた。
 画面全体を、一枚の絵として鑑賞されたし。


 音楽はBoris
 初めて聴いたが、映画と一体となっており、
 この、画面は晴れているのに心は曇天で。
 かといってウェットではなくドライな、という微妙な心情にひと役かっている。


 主役を演じたイザック・ド・バンコレ
 彼のかっこよさに尽きるね。
 スーツが似合うばかりでなく、そのボタンさばきが非常によいのよ。
 そして、
 全編にわたる沈黙および静寂に耐える風貌が、素晴らしかった。











 最後に、念のため蛇足をかましておく。
 エンタメ的ものを期待してはダメね。
 明快な起承転結だとか、
 手に汗握る展開だとか、
 娯楽的オチは無いからね。
 ここにはただ、孤独のたしなみがあるだけなのですから。


 
 ☾☀闇生☆☽