壁の言の葉

unlucky hero your key

『バーン・アフター・リーディング』感想。

バーン・アフター・リーディング

 コーエン兄弟監督作品
バーン・アフター・リーディング』DVDにて





 全身整形さえすれば人生はきっと好転する。
 そう信じてやまない天然おバカなオバサンが、ある日ひょんなことからCIAの秘密データを拾ってしまった。
 これはカネになると。
 強請れると。
 つまりは整形できると、
 オバサンの目が欲にくらんだそのときから、めくるめく負の連鎖が始まるのだった。


 げにおそろしきかな、オバサンの欲望。


 日夜とっかえひっかえの不倫をたのしむ財務省連邦保安官のハリー。
 出会い系を使ってそのハリーと交際するスポーツジムのトレーナー、リンダ。
 リンダの同僚で、彼女の言いなりのおバカ野郎、チャド。
 CIAを解雇されてアルコールに溺れる男、オズボーン。
 オズボーンの妻でありながらハリーと交際し、有利な離婚調停を虎視眈々と企んでいるケイティ。
 誤解と、偶然と、私欲と、おバカと。
 それらが彼らを結んで、
 開いて、
 悲劇になって、
 と有体はそうなのだが、そこを黒いコメディーに仕立てているところがコーエンなのだな。








 以下、ネタバレで。
 







 その笑いとはギャグではなく、黒いユーモアである。
 言わずもがなこの映画にツッコミという解説者はない。
 よって、それを洩らさず拾うには観客の感度に大きく拠るだろうし。
 拾ったうえでそれを笑えるか笑えないかで、評価は賛否にはっきり分かれることでしょう。


 にしてもね、
 欲をかいた者とそこから始まる負の連鎖。
 同監督作でその類型を考えてみると『ファーゴ』も、『バーバー』もそうなのではないかと気づく。
 『ノー・カントリー』もそうだろう。
 ひょっとしたら何らかのこだわりがあるのかもしれない。
 無知が火だねとなった悲劇こそ喜劇だ、とかなんとか。
 ただ『ファーゴ』も『バーバー』も、
 そして『ノー・カントリー』も、事の発端にあった人物が、結局は痛い目にあったはず。
 そういうのを因果応報というのだろうか。
 その点でいうと、本作は逆なのだな。
 さながらチャップリンの短編のように、おバカが最後までボケ逃げしてしまうの。
 いや、
 損得勘定を働かせて考えれば、落語の『黄金餅』のようではないだろうか。
 ため込んだ小判を丸呑みにしてくたばった坊主がいて。
 それ知った男、
 坊主を荼毘にふして腹の中の金をまんまとせしめ、そのカネで餅屋を開いて繁盛したというアレね。
 めでたし、めでたしと。


 最後に、
 うえに挙げた『ファーゴ』『バーバー』『ノー・カントリー』のどれよりも喜劇色が強かったということを記しておこう。
 間を短くして、テンポを上げているのだと思う。
 あの、ぬめっとしたクローズアップも記憶にない。
 そのせいか、前半はコーエン作ということを忘れていた。
 あたしゃ何度も声をあげて笑ったよ。






 ☾☀闇生☆☽