KINCHOの『コバエがポットン』のCM、知ってます?
おまえのとこで買ったバナナの皮にコバエがたかる。
どうしてくれる。
と理不尽なクレームをするおばはんが、香ばしくもいい味を出しておるわけですが。
これ、笑えない人も少なくないのではないでしょーか。
少なくともそういう窓口的な仕事に従事するかたたちには、笑えないはず。
なんでも警察への110番も、
大半がそういう理不尽と不条理にまみれていると、聞いた。
「なんかね。音がするの。ぜったいなんか居るのよ。この家」
で110番。
そんな毎日だもの、
そりゃあ、おまわりさんも出動するまでに根掘り葉掘り問いただすようになってくるわけ。
そのたびに彼らは報告書をつくっているんでしょ?
前職ビデオ屋時代にもいろいろ喰らった。
「お前のとこで借りたんだけど。ぜんぜん映らねえよ」
急遽シフトを調整して、
遅番に早出してもらって会員さんのご自宅に駆けつけてみると、なんのことはない。
テレビとビデオの切替ができてなかっただけ。
最悪のはコンセントが入っていなかったなんていうのもあった。
笑ってしまったのが、AVをお借りになった独り暮らしのおじいちゃんのやつだ。
まずは電話で。
「音が出ないんだよっ」
「テレビの音声のほうは普通に聞こえますか」
「ええっ?」
「あのですね、うちで借りたやつだけが、聞こえないんですね?」
「何っ? なんだか音がね、出ないの。ぜんぜん聞こえないの」
ともかくも彼。声がでかい。
で、会話の合間合間に、妖しいアヘが聞こえてくるではないの。
ははん、と思った。
察しがついたとはいえ、駆けつけるほかはなく。
行ってみると二三軒手前からもうそのアヘ声が町内にとどろき渡っている。
声ばかりか、なんつーか湿った音が熱く、激しく加速していく、あわやの事態。
靴を脱ぐのももどかしく、あがりこむなりヘッドスライディングだ。
テレビを切った。
おじいちゃん。
補聴器は?
あるいは、
コレ、ぜんぜん抜けなかったんで交換を。
とかね。
断わったら、土下座の勢いで拝まれたよ。
一回だけ、って。
今のケービでも多い。
現場のお隣さんの駐車場の前に、どうしても足場材を仮置きしなくてはならない状況で。
そこのうちの人がお出掛けになる際に、あらかじめ事情を話しておいた。
んで、念のため何時ごろのお戻りかまで訊いておいた。
わからない、という。
となると、
完全に駐車場をふさぐことは、たとえ短い時間であっても避けねばならぬ。
積み重ねてバンセンで縛った資材というものは、車が戻ってきてからすぐに移動できるような量でも、重さでもないからだ。
それで職人さんに協力してもらって、車庫入れができるスペースだけは確保することに。
しかし、
そのお車が帰宅すると、どうだろう。
ちょっとお、車が入れられないじゃないのっ。
聞けば、車庫入れはいつもは右にハンドルを切りながらの後進なのだそうで。
この状況では、ハンドルをいつもと逆にきらなくてはならなくなってしまう、という。
唖然とした。
どかしなさいよ、と怒鳴りよる。
時間が掛かりますが、と告げると、知らないからねと車を道のまん中に放置して家に入ってしまうではないの。
鳶さんが「ほっとけほっとけ」と呆れている。
あたふたしていると彼女、五分後にまた現われて、不承不承「逆から」車庫入れを始めた。
ひょっとしたら家人に愚痴って、逆に諭されたのかもしれない。
片交の誘導中に「あそこに停まっている車、邪魔だからどかせよ」というのもある。
あたしゃ警察ではない、と言うと「そんな不公平なハナシは無い」。
かつて先輩ケービ員に言われたことがある。
この仕事、理不尽なクレームをひっかぶるのも仕事のうちだからね。
修行とは師匠の理不尽に耐えることだ。
そうのたまったのは立川談志だった。
けっきょく、どこもここもクレームの世の中なのだ。
だもんだからいっそ決めつけてしまうけどね、
先ごろの買い占め騒動の、あの中高年たちと同じにおいがするんだな。
彼らは。
手前個人の精神的苦痛ばかりを叫ぶ、あれね。
わたしは傷つきましたって胸を張る。
あのノリね。
やな渡世だわ。
とまあ、コバエからそんなことまで連想してしまったわけなのだが。
実は、そのコバエのこと。
ここ数日、あたくしのわび住まいにコバエが目立つ。
まあ、季節が季節でもあるのだし。
ビールの空き缶をすすがないで置いておくと、あっという間に連中はたかり始めるわけだから、気にしないでおいた。
ところが、どんどん増えていく一方で。
ひょっとして、何かが、部屋のどこかで、腐っているのでは。
そう思い至って、あちこち探し回った。
濡れタオルが冷蔵庫のうしろに落ちている、とか。
ノロイにやられた旅のネズミが逃げ込んで、ガンバに出会えず息絶えた、とか。
隣の空き部屋に死体が、とか。
いろいろ想像をめぐらしたが、正解にまで至らない。
気を取り直して今朝。CDの山を整理しはじめると、そこから、もわわんと黒い煙があがる。
もとい、コバエの群が、湧き立った。
もしやとCDをひと山取りのぞくとそこにリンゴのダンボール箱が、忽然と。
信州に嫁いでいる姉が、昨シーズンに送ってくれたものである。
ひと箱で10個入り。
独り暮らしではとても食べきれないと、ありがたいながらも毎年その処分に頭を悩ませ続けてきたリンゴちゃんだ。
嗚呼、
あたしゃ完食せずに居たのだった。
すまぬ姉貴。
中途で投げ出して、放置プレイかましてた。
もおね、箱ごとゴミ袋にダンクしたね。
半透明の袋の内側をまだらにするほどに、コバエが飛び立って、上へ下への大騒ぎである。
収集日まであと一日。
そのゴミと今夜もひとつ屋根の下である。
さて、どうしたものか。
いっそ姉貴にクレームの電話でもかましたろかいな。
☾☀闇生☆☽