「使えねーなおまえ」
その現場では、終日そんな怒号が飛び交った。
足場組みの鳶のチームにひとりだけ、要領を得ない方がいて。
力もなく。
高所での度胸もなく。
「おいおい。それ、そんなに重たいか?」
「びびりすぎだろっ」
新人なのか。
あるいはまだ慣れない外国人なのか。
よって作業は遅々として進まない。
現場というものは、現実そのものであるからして、
助け合いだなんだのという綺麗ごとだけではどうにもいかんものなのだ。
かわいそうに、
とおもったところでしゃーないと。
みんな自分の作業でいっぱいいっぱいだし。
その方も怒号にいちいち焦れることもなく、
卑屈な「すいません」マシーンにもならず、
かといって開き直りもせず、
使えない等身大でやりくりしている。
していくしかないのだし。
なんだかんだいっても自分には、自分しかいない。
よってぶつぶつと独り言で確認をしながらの作業となるわけ。
周囲はというと、
そうはいっても彼のせいで事故や怪我になるのは御免こうむりたいので、そのぶん気を配り、手伝って、無駄にカロリーを使うはめに。
そこへきてこの暑さだ。
正直、
人の振る舞いとしてお上品な事態にはならないのは、やむをえまいて。
ちょいちょいそんな現場に出くわす。
あるいは鳶なら誰もがとおる道なのか。
いい歳こいた新人さんが、
自分の吐きだす「すいません」に押しつぶされるようにして、汗みどろで奮闘していた現場もあった。
足がつり、
酷使した手が感覚を失って、動けない。
見るに見かねてあたしが足を揉んでやると、
「おいおい。ケーピ員さんは、そんなことするために来てくれてんじゃねえんだぞ」
不甲斐なさと、
申し訳なさとがあいまって、
せめてもの真摯な姿勢として、一生懸命をアピールする。
とたんにこう罵られる。
「馬鹿。顔に力入れるから、足腰に力が入んねーんだよ」
挙句、良き新人として先輩の技術に感嘆したりもする。
んが、それもただちにこうだ。
「褒めたって疲れるだけ。早く運べ」
作業のデキ。
安全性も含めた早さ。
現場環境への気配り。
つまるところが結果。ここはそれだけを問われるのである。
んが、
今日のケーピは、これといってすることもなく。
とおりすがりの住人の方々に挨拶をしーの、
やぶ蚊に刺されながら、ただただ見守るしかなかったと。
それがあたしの今回の持ち場であり、
仕事なのだから。
「使えねーな」
なかなか耳の痛いお言葉ではないか。
はて、
あたくし的に、
つまりあたしの人生にとって、
あたしは使えるやつなのか、どうか。
休憩中。。。
☾☀闇生☆☽