ミドレンジャーが好きだった。
理窟はない。
なにゆえ彼だけが、
他のレンジャーにならってミドリレンジャーと名乗らずミドどまりなのかという謎も含めて、あたしゃまったくもってつまびらかではないのだが。
赤も青も黄も桃もフルネームであるのに、
ミドって。ねえ。
そこに人知れぬ影があると見たわけだ。
ははん、
なるほどそれも含めて秘密戦隊のゆえんなのか、と今更ながら腑に落としこんだろと現在のあたしが思おうが、思うまいが、知ったことではない。
子どものあたしはなぜかしら彼に惹かれたものだった。
キレンジャーでさえ『黄』を言ってもらっているし。
って、そのキレンジャーでさえ、っていう見下しもどうなんだか。
いやいや、
幼児の自分の欲するところだ。
実のところはそんな疑問すらなかったはずだ。
ミドレンジャーの人格、容姿、その他は別。
ただただミドリが好きだったと。
なんせひとつもエピソードを記憶していない。
色のみである。
そんなこんなで、
この季節になるとかき氷を思い出す。
たとえば幼いころ家族旅行で観光地を訪れれば、土産物売り場の軒先には必ずと言っていいほど赤い『氷』の字の染め抜かれた旗が翻っているものであり。
こちとら一端の子どもである。
そんなときこそ親の財力を頼らんでどうするといったもんで、有体にいえばそれをせがむわけだ。
かつて、
店頭にずらり居並んでいたサンプルはわずか三色。
イチゴ、レモン、メロン。
まばゆいばかりの三役そろい踏みである。
むろんミドレンジャー好きのあたしのこと。
ミドリ色のメロン味以外は眼中にないわけで、それを所望するのであるが。
必ずと言っていいほど、そこで父が水をさす。
勝ち誇ったようにこうのたまうのであった。
「お父さんはアズキ」
おお、
そんなものもあったのか。このかき氷の国に。
そこはなんせ子どもだ。
秘密戦隊を色彩的価値の神聖としているところへきて、
アズキレンジャー?
子どもの価値観はビジュアルに大きく引きずられるわけで。
引きずられたがってもいるわけで。
アズキなんか、
アズキなんか、
あんなもの粒粒のウンコではないか。
だいいちアイスに煮豆ってのが、ねえ。
露骨なまでに老人くさいわけでえ。
なんか知らんがフキの煮物とか連想してしまう。
せっかくの観光地であるのにそれはいかんだろ。
日常臭ただならないだろ。
ちなみにレモンの黄はといえば、氷の白とのコントラスト的に弱いし。
イチゴの赤は、ヒーロー色ど真ん中でベタすぎる。
直球すぎて、はずかしいと。
好きな野球選手を聞かれて王とか長島とかのたまってるようなもので。
ビートルズで言えばジョンが好き、ポールが好きと言ってるようなもので。
そこはやっぱジョージだろ。
メロンだろ。
ミドリなんだ。
とまあ、そんな拙い杓子定規しか持ち合わせていないあたくしに、父は必ずこう続けるのだった。
「アズキが一番モトがかかってるんだ」
なにおおおっ。
嗚呼、はしたない。
我が父ながら、はしたない。
そんな基準でスイーツを語るかっ。
子どもに損得を教えるかっ。
どーにもこーにも腑に落ちない闇生なのであったが、なるほどイチゴにもレモンにも、そして我がメロンにも、実物の果汁や果肉が入っているわけじゃあない。
けれど、アズキにはそれがある。
花はないが、実があるのだ。
くっそお。
つぶつぶウンコめ。
話をゴレンジャーに戻すが、
大概の同世代人が惹かれたのがアオレンジャーだった。
それはもう圧倒的な議席数をほこっていた。
青こそがアンチ赤であると。
そこへいくとミドに惹かれるとは、何ごとだと。
ヒーローど真ん中のアカと、
その対照としてのアオと、
ボケ役のキと、
紅一点のモモ。
んでんで、
ミドである。
なんなんだお前は。
突きつけられて、あたしゃ猛烈な孤独に陥ったものだ。
その挙句、強烈に青を慕うようになってしまった。
……のかどうかは知らぬが、大人のあたしはすっかり青好きである。
思えば、
あれからかき氷の種類も増えた。
数年後にはブルーハワイなる青いかき氷が参入する。
自然、アオレンジャー好きの少年たちはこぞってそれをせがむことになる。
昔も今も、
氷あずきにはちゃんとアズキが埋蔵されてある。
んが、
ブルーハワイをほじってもほじくっても、少年たちは一向にハワイを見つけることは出来なかったのであーる。
☾☀闇生☆☽
親父はカップアイスに使う木製のスプーンをスコップと呼んでいた。
「スコップもらってきたか?」
昔、アイスを買ったところで、店員さんはスプーンをつけてくれないことが多い。
アイス売り場に「どうぞご自由に」の風情で山盛り、ほったらかしにされてあったのだ。
なるほど、
すくい上げるというよりは、掘るイメージが強く。
印象的にはそちらが正しい。