壁の言の葉

unlucky hero your key


 ははん。
 さては口減らしに取り掛かっているのだな。太陽め。
 今度ばかりはぶっ倒れると思った。
 作業開始そうそうから駆け回らざるをえない現場であり。
 けれどそれも午後からはひと段落ついて。
 しかも団地の改装工事だもんで、日影がある。
 熱風とはいえ、空気に流れがあるのもありがたかった。
 水分は、ゆうに二リットルは飲んだなあ。
 全部汗になって出ちゃったけれど。
 制服に塩をのこして揮発してしまったけれど。
 どうにか、今日も乗り切った。
 生来、
 夏は暑いほど好きだ。
 はっぴいえんどの『夏なんです』の世界にあこがれ続けてはいる。
 んが、外の仕事のときはつい恨んじゃうね。


 ただし、
 というかその分、
 まったくの他人との苦痛の共有・共感でもって、不思議と触れあいが増えたりして。
 ガードマンさんも大変ねえ。
 いえいえ、恐れ入谷の豆太郎にございます。
 しっかし暑いわねえ。
 にしても暑いっすねえ。
 もおお逃げ出したいくらいっ。
 逃げちゃってください。僕をつれて。
 通り過ぎる職人さんや、住人の方とのなにげないやりとり。
 それが気の紛らわしという、ささやかな風通しとなって笑顔が笑顔をつくっていく。


 くさいとお思いでしょうが、
 あの灼熱地獄で孤独でいると、
 ついネガティヴに陥って、消耗も早いのよ。


 ところでこの闇生、
 移動はできるかぎり階段を使うことを自分に強いている。
 まあ、
 遊びのようなもんです。
 横断歩道の黒いところ踏んだら地底に落ちて死ぬ、みたいな。
 あたしゃいまだに子供世界に棲んでいるもので。
 けど、市ヶ谷駅南北線から都営新宿線への乗り換えのアップダウンは、さすがにしんどいわ。
 どこかヒマラヤの山岳民族を訪ねにいくような気持ちになる。
 連日のこれで、あたしゃすっかり筋肉痛なのである。
 
 
 にしても、
 こうも暑いと、みな無防備になっていくね。
 大胆だわ。
 そのせいで目のやり場にこまるようなことも、そこかしこに溢れだして。
 こまるとはいえ、見てしまう。それもまたサガなわけで。
 んで、
 見つめればつい、ふにふにしたくなると。
 正直、たまらん。
 したい。
 ちょっとだけでも、ふにふにさせてくれんだろうか。
 所詮は行きずりなのだが。
 この暑さに免じてさ。
 今日も頑張ったんだもの。
 いやいや、
 いかんいかんいかん。
 その一線をこえてはならんのだ。
 この度はぐっとこらえて、ふにふにしないどいてやろう、
 ……の術。





























 という、愛。


 ☾☀闇生☆☽