壁の言の葉

unlucky hero your key

『刑務所の中』感想。

刑務所の中/花輪和一

 
 花輪和一原作、崔洋一監督作
刑務所の中


 知る人ぞ知る漫画家、花輪和一
 彼が銃刀不法所持によって喰らった三年間の懲役体験から、知られざる日本の獄中生活を紹介する趣向である。
 むろん映画の原作となったのは、出所後、当人の手によって描かれた漫画だ。
 その恐ろしいまでの記憶力に、誰もが舌を巻くに違いない。
 独房の間取りから日々の規則のあれこれ、囚人たちのささやかな愉しみから、個性あふれる囚人の面々まで。
 そしてなにより目立つのは、日々の献立の紹介なのである。
 その絵は異様なまでに詳細で。正確で。
 てか、大袈裟に言えばその線には執念すら感じられて。
 なおかつそこにふんだんにページを割いているものだから、囚人にとって食事というものが、
 さらに言えばそのメニューの変化が、
 どれだけ心の拠り所となるのかが容易に想像できるというもの。


 して、

 
 驚かされるのが、その意外な豪華さなのであーる。
 ヒトはそれを、
「クサイ飯」
 といふ。
 それの、なんとまあウマそうなことか…。
 メニューが毎日のように変わって、飽きさせないわけであり。
 日々ほとんど同じものを繰り返し食べているこの闇生より、ここでの食環境は、よっぽどいいのだ。
 うらやましいわん。
 そうそう。
 この漫画を通して感じるのは、そんな不思議な幸福感なのであーる。
 さながら桃源郷のような。
 つまりが獄中ものにありがちな脱獄や、罪への懺悔・後悔、集団リンチ、理不尽な看守…、そんなものは一切出てこない。
 ショーシャンクも、
 大脱走も、
 父に祈りをも、ない。
 もののみごとに、ない。


 ない。


 あるとすれば、そんな幸福感へのとまどいが、かすかに…。
 しっかし、いいのかね。悪いことしたっていうのに、こんなに毎日いろんなもん食べさせてもらってさ、とね。
 おそらくは、禁欲的で、単調で規則正しい毎日が、環境の小さな変化に機微を見出させるらしい。
 そこには刺激に溢れて麻痺させられがちなシャバとの落差が、働いているはずで。
 となると、それは理想的なシンプルライフじゃんか。
 じゃんか、となってしまうじゃんかと。


 すまん。
 映画の感想を書くつもりが、原作の漫画のことばかりをのたまっている。
 映画は、長い。
 こんなあたしののたまいよりも、長い。
 ちなみにあたしの場合、漫画を先に読んでいた。
 この作品、先にも述べたがゴリゴリのエンタメ的展開は、ない。
 だから、獄中の意外な一面だけが、驚きというメリハリになっているわけであり。
 意外性といっても『実録!女子刑務所』なんかにつきもののお涙は、カケラもないという。つまりが、のほほんな懲役ライフ、という驚きなのだ。
 それを先に漫画で知ってしまっているだけに、どこまでいってものほほんな獄中紹介は、なかなかにつらいものだった。
 やっぱり、ひとつ核となるエピソードを持った方が良かったのではないか。
 だもんで、
 ラストの野球の編集のリズム感までが、どこかぎこちなく。
 そうまで言わなくても、ランニングホームランと打球の位置関係が、どうなのよと。
 で、それで幕とする意図も、よくわからんし。
 食の豊かさに辟易するセリフも、冒頭ではなく、もっと後にした方がよいのではないか、とか。
 なんだかんだいって映画的な、
 ようするに映画ならではの、キラリがほしかった。





 ちなみに山崎努はいい。
 けど漫画がお勧めです。



 ☾☀闇生☆☽


 エネファームのCM。
 森の中の妻夫木とマスター細野。
 これはあれか、
 惑星ダゴバのルークとヨーダか。
 欲を言えば、細野さんの耳をとがらせてほしかったなあ。
 昔、CMでやってたよね。


 追伸。
 上記とはまあったく関係ないが。
 先日、ひょんなことで救急車に乗った。
 道端でプチ関係の或る人が倒れていたので、119番してつき添ったのだ。
 そのとき、乗っていた自転車を現場近くの電信柱にワイヤーキーでくくりつけておいたのだが。
 搬送先の病院から電車を乗り継いで戻ってみると、マイ自転車は残っていたものの、オプションでつけ足したライトが盗まれているではないの。
 まったくもお。
 盗んだヤツもヤツだが。
 あたしゃあのとき、現場に駆け付けた警官に自転車をどうするか相談していたのだ。
 すると、
「鍵はないの?」
 一刻をあらそう状況だったので、あたしゃそう判断するほかなく。
 でも、考えてみりゃ、最寄りの交番で預かってくれたりしないんすかねえ。
 できないんすかねえ。
 ちなみにあたしゃ十把一絡げな警官ぎらい、ではないからね。
 現場の人は、まずは尊重する。
 よーにしてる。


 ライト返せっ。
 闇生に光をっ。