壁の言の葉

unlucky hero your key


 ワークシェア中のバイトに選んだケービ員の研修が続いている。
 みんな個性的だーねえ。
 キャラが立ちまくっちゃって、かなわんわ。
 すでに脱落者もいるけど、そういう人はまず否定ありきの姿勢だったと記憶する。


 何かわからないもの。
 知らないもの。
 そんな初体験に出くわしたとき、のけぞって、否定的にそれにあたるやつと、
 前のめりに身を乗り出して「なんだろう」と好奇心であたるやつとは、その後の人生がまるで違うのだ
 

 …とは、
 『もののけ姫』製作時の宮崎駿の受け売りなんですけどね。
 あの物語でアシタカは「何だ、何だ」と、ひたむきに西を目指したのだ。
 そこへいくと、
「うだうだはいいから、まずやってみようよ」
 と思わず怒鳴りたくなる人も、ここには少なからず、居て。
 そんな人は、大概リタイアしているもので。


 まず、やってみてから考えればいいじゃんか。


 考えるな、とは言わん。
 けど、仕事だし。
 してチームだし。
 ましてや未体験だ。
 経験者の指示を、いちいち頭でわかってから行動していたのでは、追っつかないだろうに。
 であるにもかかわらず、ぶつぶつのそのそと、まー、やりよるんだな。これが。
 そこはひとまず「仲間入りをしようとする人を悪くはしないはずだ」ということにしてだな、
 ちっぽけな『自分』なんてものは一旦棚に上げてだな、
 でもってさ、
 ともかくもコトにあたろうよ。
 いますぐ全てをわかる必要は、ないのだし。
 初めて知るもろもろの取り決めは、そこの先人たちが何代にもわたって改良を続けてきたリレーのタマモノ、ということにしてね。
 とどのつまり、たかだか自分ひとりの脳みそで今この瞬間に理解できることではないのだとして。
 まずはやってみようと。


 やってみろと。


 考えて見れば、警備員の教育なんてものは、足並みをそろえること。それに尽きると思う。
 制服にしろ、
 合図にしろ、
 そこに個性は邪魔っけだ。
 逆にいえば、人間はすべて個性的でばらばらだと、そう踏まえているからこその統一化であると。
 そんなわけで、より隊員たちの個性が際立って見えたのかもしれない。
 いいキャラしてんだ、みんな。


 そうそう。
 休憩中に派遣会社に勤めていた人と言葉を交わしたのだが。
「仕事を選んでる時代じゃないんだよ」
 と登録社員たちを諭していた立場が一転。会社を閉め、今こうしてケービ員に応募するハメになったとのことだった。
 教えられるそばからそっくり忘れてしまうと、己の記憶力の老化を嘆いておられたのだが、あにはからんや、まわれ右の練習中に足を負傷してあえなくリタイアとあいなった。
 きっと不本意だったことと思う。
 ほかにも、短期の小遣い稼ぎもいれば、定年後のアルバイトとして働こうとする人もいて。
 低迷する製造業から、空いた時間を有効に活かそうと応募してきた人もいるし。
 なんであれ、新人同士が顔をあわせればネガティヴな話にしかならんのだな、と知った。


 で、想い出した。


 かつて、英会話スクールの営業をやっていたとき、新人は決して一人ぼっちにするなとの厳命があった。
 たとえトイレであっても、先輩はそれとなく連れションを装ってついていく。
 なぜか。
 新人は未知の真っただ中にいるのだ。
 その未知は大概の場合『おそれ』と言い換えられる種類のもので。
 ちょこっとした拍子に否定的な考えに転んでしまうわけ。
 一人になれば、そのネガティヴを反芻するし。
 そんな新人同士が会話をすれば、なおのこと、否定に加速がついてしまう。
 だもんで先輩が、未知の正体を常にポジティヴに方向付けてやらねばならないのだ。



 研修は続くよ。
 実技は声を出すし、動くからいいのだが、授業の眠さのねばっこいのなんのって。
 今日はもう寝まーす。







 ☾☀闇生☆☽


 大概の場合、自身のプライドぶった上から目線が、成長を妨げる。
 好奇心に蓋をする。
 まず、馬鹿になることでしょうな。