自棄に勢いがついて、ちょっち寝坊してしまった。
いかん。
ならばいっそ自炊をサボってしまえと、邪心がやさしくそう囁いたのだが、
「のおおおおん」
突っぱねた。
やさしくしてくれるのはいつだってヨコシマな自分ばかりだ。
んが、そこはひとつ、きっぱりだ。
舐めちゃいやんと。
朝食は無理でも、昼用の握り飯くらいは作れるだろうと。
なんならゆで卵ぐらいはいけるだろうと。
なんなら、とは何かと。
ぐらい、とは何ごとかと卵に叱られそうではあるが、なんせ減給が響いて鼻血も出ない日々であるからして、そこはひとつやらねばならぬのであーる。
ぐらい、を。
ここぞとばかりに『早炊き』モードを使うのであーる。なんなら。
思えばそのスイッチ、炊飯ジャーを買い換えてまだ一度も触れたことがない。
ありがたい。
待っていてくれたんだね。早炊きよ。
ならば遠慮はしないぜ。
ぽちっとな。
つったって、この闇生。やもめ暮らしのスットコドッコイだ。
おっぺけぺーだ。
朝と昼で一合ぽっちしか消費しないから、あっちうまに炊き上がってしまうのだな。
あっけないのなんのって、もお。
んでんで、
いざいざ、椀によそひて握り飯をば作らんと。
んがんが、なんということだろうか。
ぽろぽろっと、しゃもじからご飯粒が、こぼれ落ちてしまうではないのさ。
おいおい。
待て待て。
はてはて。
つらつら考えるに、そうか。
しもうた。
水加減ね。
むろん白米から発芽玄米にかえた折に、あれこれ試してはいた。
白米のときより水は、ちょぉぉっち少なめに、と。
そのコツのままにこの度の早炊きをやらかしたわけなのであるが。
無念。
とどのつまりがアレですか。
普段と同じ量の仕事を半分の時間で片付けろ、なんてのは都合が良すぎると。
水増しせえと。
いうわけですか。
わけですね。
とにもかくにも、時は金なり。
チャーハンにでもして弁当箱に詰めようかとも思ったが、すでにピットは海苔だの梅干だので握り飯のスタンバイを完了している。今か今かと待ちわびてんだ。
それをいまさら。
ここはやはり、そのぽろぽろしたご飯粒を握るしかないだろうと観念した次第。
すると案の定といえばそれまでだが、
ご飯粒のひとつひとつがそれぞれに勝手な個性を主張して、ああでもないこうでもないと、ちっともまとまらないではないの。
I !
Me !
Mine !
I !
Me !
Mine !
叫びながらこぼれ落ちて、
それにつれて握り飯はどんどん小さくなっていく。
握れば握るほど、痩せていく。
といって、
お互いがべちゃべちゃのべとべとでも、
水くさい。などと
水に流せば
水入らず。
水を差す奴、
向こうみず。
水入り、
水引、
冷や水と、とかく関係というものは、水の加減にかかっているようで。
孫悟空が金斗雲で挑んだ三千世界は、お釈迦様の手の中という。
はたして、こちらのほうの握り飯は、いまどんな按配なのかしら。
☾☀闇生☆☽