「恋文」
「紅き唇」
「十三年前の子守唄」
「ピエロ」
「私の叔父さん」収録。
「恋文」の女がつらい。
オンナは若くして病に侵され、もうあまり先がない事を知る。
振り返れば、明けても暮れても地味な仕事をこなすだけの乾いた人生。
そこでせめて心残りくらいはご破算にしておこうと、自然消滅の関係になっていたオトコに再会する。
事情を知ったオトコは、妻子があるのを隠してオンナを看取ろうと家を出てしまう。
ばかりか、オンナの未練を成就させるために、妻に離婚を申し入れるのだ。その上でオンナとささやかな結婚式をあげ、籍を入れてやりたいのだとまで。
オンナへの、せめてものハナムケとして。
妻は愛する夫の希望に、
そしてそんな男を愛してしまったことに苦悩するが…。
この話と、姪との淡く鮮烈な恋をつづった「私の叔父さん」は、下手すると男の、つまりは作者の願望に堕ちてしまいかねない。
それを見事持ちこたえて感動へと昇華させた筆は、人間への深く慈しみに満ちた洞察に支えられて、強くしなやかなのだ。
実は読む前に、偶然これの書評を目にして、筋書きを知ってしまった。
言ってみればネタバレだ。
けど、関係ないね。
その書き手も『再読』の感想として綴っていたのだし。
読み直して「恋文」の意味が改まった、と。
ジャンルとしてはミステリ扱いになるらしいが、そのくくりもまた邪魔になるほどに技術が物語に溶け込んでいた。
言い換えれば、衒いという臭みが無い。
読み終えてふと志賀直哉なんかを読み直したくなったのは、どこか似た匂いを嗅ぎ取っていたのかもしれぬ。
☾☀闇生☆☽