壁の言の葉

unlucky hero your key


 そういえば、
 そもそもがだ、職の見つけ方はむろんのこと、探し方すら知らないのだ。あたしゃよぉ。
 求人情報誌に頼ったのは、はるか昭和の終りのことだったし。
 無事採用されたはいいものの蓋を開けたら完全歩合制であると。


 血も涙もありゃしない。


 精も根も燃え尽きてへろへろになった。
 無気力になったあたしは、そのまま放浪同然に日雇いと友人のアパートを渡り歩って。
 その果てに、ポケットに小銭しかないという、食うや食わずで飛び込んだのがビデオ屋だ。
 その時の店長に、個人的に給料を前借りしてもらい。
 どうにかこうにか食いつないで、
 生き延びて。
 のちに社員になって店をまかされ。
 いまのエロDVD屋も、そのときの先輩からのお誘いでのことだ。
 考えてみると、今の会社。社長を含めたスタッフの全員が、かつての同じビデオ屋出身なのである。
 前職ではみな支店に散っていたので滅多に顔を合わせることは無かったが、何かしらでつながってはいた。
 そのよしみで固めたチームワークでもあったのだ…。
 しかし、あえなく業務縮小なのであーる。


 どうしようかと。


 ともかく履歴書を書かねばならんと。
 このように、ずっと人の縁でつないできたので、節目節目の記憶があいまいになっている。
 そこで、押し入れのなかを漁って、ざっと日記を調べてみることに。
 縦書きのノートに手書きでしたためていたころにまで遡った。
 と、
 その押し入れの深淵部に、
 クッキーの赤い缶を発見したのだな。
 開けてみると、なんと中に詰まっていたのは手紙。
 そのどれもが、大昔、バンドの真似ごとをやっていたころに、いただいた手紙である。


 はずかしや。


 若気の至り、と言おうか。
 気の迷い。
 いや、血迷いとまで言ってしまおうか。
 こんなあたしにでも感動して手紙をくれた人が、辛うじていたのだな。
 なにより驚いたのが、どれもこれも手書きであること。
 当然と言えば、それが当然の時代なのである。
 とはいっても、あたりまえにやり取りしていたそれら手紙の、その筆跡の存在感といったら、圧倒的よ。
 しかも結構な文章量なのよ。
 便せん三枚とか。
 いまこれと同じ量を手書きでやれっつったって、相当にしんどいと思うのだわ。
 メールならともかくね。


 すげーな、と。


 しかも封筒やら、便せんのデザインをわざわざ選んでさ。
 なおかつ凝った折り方でワイシャツ型にしたり、ハートにしたりと。
 だから言葉が書き手の『色』をおびているの。
 そのうえ字体からしてまるごと個性だもの。
 時を超えて、ばっつんばっつん胸うつ、胸うつ。
 当時はみな普通にやってたものね。こういうのは。
 労力使ってたんだねえ。あのころ。


 ちゃんと読めば、現在の不甲斐なさが止めどもなく際立つので、それくらいにした。
 成仏させた。
 バンドの面々と撮った写真も、ごっそり出てきた。
 もはや、そのなかの誰ひとりとも、連絡はとれない。


 最後にひとつ、高校時代にふられたときの手紙が出てきた。
 つまり、お断りの手紙である。
 なんでまたこんなものをとっておくのかね、俺は。
 そんなんだから、ダメなのだ。闇生よ。
 文面は、今読んでも耳が痛いもので。
 あ、そうか。俺の欠点を的確に突いているので、か。
 んが、
 これを機に、棄てるよ。
 てか、棄てたよ。
 ありがたし。
 お断りだって、長々と手書きである。 
 その労力をふくめて、感謝と。


 よし。
 履歴書、完成。


 が念のため、応募するまえに先方を偵察しておくことにした。
 これは重要なことである。
 すると、
 あにはからんや。
 おいおいおい。
 スタッフが、開店早々どんよりと疲れているではないの。
 どったのよ。
 レジの対応も暗く、声が出ていないし。


「声出していこうぜっ」


 客の顔も見ない。
 朝に弱いのですかね。
 もしやと思い、時間をおき、今度は閉店間際に覗いてみた。
 バイトはチェンジしていたが、店長らしき人は、朝と同じようにどんよりと作業に没頭していた。
 おそらくは、ぶっ通しなのね。
 ご愁傷様であーる。
 念のためにネットでの評判をあたって見ると、社員の劣悪な勤務形態がそんなどんよりの素になっているらしく。
 それがスタッフに伝染してチームワークにヒビを入れ、悪循環となっているらしい。
 従業員たちが書きつづる店長への悪口の、雨あられときたら。もう。


 やだやだ。

 
 ビデオ屋時代にあたしゃ、バイトたちに総すかんを喰らったことがあるのだ。
 十六時間営業のその店をひとりで通し、店内にダンボールをひいて宿泊し、翌朝開店して営業ということもよくやった。
 二か月間、一日も休みをとらずにそんなことを繰り返しもしたものだ。
 むろん、自分にも非はあるのだろう。
 そしてあそこまでの孤独ももうないとは思うが、否が応にも思い出してしまうのよ。
 あんな日々がまた続くのかと。


 楽しく生きたいなぁ。
 だなんて甘いのかね。



 ウォーキングがてらに、ディスクユニオンで中古をゲット。
 パット・メセニージェフ・ベックの旧作を、併せて4枚。
 アニメNarutoの主題歌がほしくて、サンボマスターをはじめて購入。
 Antony and the johnsonsは、新品で別の機会にしよっと。
 そういや坂本龍一高橋幸宏の新作も出たばっかだし。
 彼らはもはや腐れ縁だから、いずれは買っとかんとな。
 見届けねば。
 ああ、ジェフ・ベックのライブDVDも出ますな。
 これは評判がいいんですわ。
 ハコ(会場)がこぢんまりとしてて、
 客に身内の姿もあって。
 てか、
 んなことより、転職ですわ。






 嗚呼、どうしよ。




 ☾☀闇生☆☽


 どうしよ。