壁の言の葉

unlucky hero your key


 以下は、ながい愚痴である。
 だもんで、スルーされたし。










 勤務先の閉店の話だ。
 こればかりはタモさん式にはいかないんだな。
 なので、まずは店長さんとして、アルバイトに話しておかなければならない。
 閉店が決定ともなれば、彼らの生活を直撃するはずだから。
 彼らの職探しの期間を考えれば、できるだけ早くしてやったほうがいい。
 ということで今日、意を決して話した。
 実は、先方もうすうす予想はしていたらしい。
 信頼して帳簿をあけすけにしてきたのだから、当然と言えば当然だが。
 意を決するほどの勇気を必要としたわけは、やはりまず、あたくし闇生がビビリだということ。


 なによりも、それだ。


 なんせ話す方も、
 話される方も、
 ひいては仕事場の空気も、
 そこから先の日々は否応もなくネガティヴに吸い寄せられるわけで。
 途端に、平穏な日常というものが、そしてそこに生きる人々が透明な壁の「向こう側」になってしまうわけ。
 それでもね、
 まがりなりにも店長さんだ。あたしゃよ。
 ちっぽけな店だが、役割としては辛うじてそうだ。
 自分のことはさて置いて、ともかくも前向きの『前』を、こじつけにでも提示してやらなくてはならないし、それに励まされるバイト君に、あわよくば自分も励まされようというすけべったらしい魂胆もあるにはあるのだが、いわずもがな自分の不安を棚にあげてのたまうものだからして、そこに信憑性を生むのに、難しく。
 うん。
 加えて、これから迎える殿戦を、せめて隊列を乱さずに粛々とすすめたいという切なる願いが、話すのをためらわせたのだ。


 とどのつまりが、ビビッていた。


 その退却の足なみにこれまでのチームワークの中身が、ようするに不肖闇生の統率力やら人徳やらが、露わとなっちまうもんでよ。
 フリチンで撤退だ。
 ただでさえ、ナニをさておく個人の天下だもの。
 そんなこんなでここから閉店までの短い日々は、各々の人間性が、ぺろんちょとはみ出してしまうことだろう。
 店長さんとしての経験上、辞め際ほど、人はなりふり構わなくなる。
 発つ鳥あとを濁さず、の美学なんぞは、いまどき通じやしない。
 ましてや、親許を離れたバイトにとっての勤務先というものは、玉砕までつき従わなくてはならないような義理もないのだし。
 それが通常の作業や接客態度にも、おのずと表れて。
 その結果店に、
 そして仲間への類焼を呼んで被害を大きくしてしまう場合が、往々にしてあるもの。
 てか、あったよ。
 幸いにもこの度の我がチームメイトは、不安よりも、めんどくさいというのが本音だと云ってくれた。
 ほお。
 まあ、あたしよりはずっと若いのだし。
 有難くも、たくましいではないか。


 とかなんとか、
 なにをのたのたとブザマに書きつづっているかというと。
 すまん。
 ただただ己の不安がためである。
 こわいのだ。
 話した直後から、それはぞくぞくと押し寄せて。
 胃を締め付けて、
 あっという間に、腹をこわしてしまった。
 なさけない。
 これまでのしがない半生でも何度かあった、あの不安の恐怖。
 自分の部屋に帰るのが、言いようもないほどに、怖い。
 それでもまだ以前の職場よりはマシだ。
 どこへ行っても、経費削減のために完全リレー制のローテーションを組まれた。
 よって、同僚と時間が重なることがなく、こうなった場合の不安は底なしだったものだ。
 ああ、そうさ。闇さ。

 
 しかしながら今回、
 なんだかんだ言ってもいっこうに懐いてはくれない現アルバイト氏との、他愛のない雑談が、この不安を薄めてくれる。
 所詮は気晴らしには違いないが、その、なんとありがたいことか。
 おそらくはイヤなてんちょだったはずだが、そこはひとつ、感謝だ。
 そして、今更ながら思い知る。
 そういう他愛のないキャッチボールの積み重ねが、いかに人の支えになっているのかを。


 思い知ったところで、時すでに遅しだわ。

 
 志ん朝を聴きながら、帰宅。
 その『抜け雀』に、「手に職」というものを思い知る。
 本を読んでも頭に入らず。
 飯を食っても、吐きそうで。
 それでも何かは腹に入れないと。
 ココアと、残っていたあられを五、六粒。
 こういうときほど友だちがいないことと、人気のないことが、身にしみることはない。
 で昨夜、
 ついに自発的なメールを送信してしまった。
 高校からの付き合いのやつに。
 ゲンキンなものである。
 思うことあってアドレス帳と履歴の一切を、削除していたのだが。
 この一年あまり、唯一自発的に便りをくれた、なけなしのなけなしがトレイに残っていた。
 してこの、救いようもなく弱い意志だ。


 嗤っておくれ。


 今にして思えば、
 躍進めざましかった新店舗と、
 つつましやかな今の店と、
 どちらに就きたいかと、選択を迫られたことがあった。
 あのときにあたしの悪い癖、判官びいきが出てしまったのだな。
 アホチンである。
 だって、
 潰れかけを蘇生させるほうが、やりがいがあるじゃんかよー。







 じゃんかよー、てか。
 これを負け犬の遠吠えといふ。


 ☾☀闇生☆☽


 書いてるときだけ気が落ち付いてくる。
 けど、
 何も少しも解決はしないのだ。
 ともかく失業後の大幅な減収に備えて、
 定期購買のサプリを止めたり、
 もろもろの節約にとりかかる。
 これでも毎朝死ぬことばっか考えてたんだから、笑っちまうね。
 愚かもいいとこ。


 あ。
 そうそう。
 『職』を『食』にかけた小説を書いたことがあった。
 それにありつこうとすったもんだする都会の野良猫の話で。
 人呼んで、万太郎。
 ニートだ、引きこもりだという言葉が、取りざたされ始めれたころだった。
 当時は彼らを叱咤激励するつもりで書いたのだが。
 なんのことはない、
 書いた自分が、そうなった。
 闇生よ。
 能なしよ。
 万太郎が嗤ってるぞ。