壁の言の葉

unlucky hero your key


 出勤前。
 いつもテレビをつけて、なんとはなしに画面を眺めている。
 音は消して。
 代わりにi-Tunesで音楽を流して。
 飯を食ったり、着替えたり。
 ほら、過剰にテロップが流れるんで、いまやテレビの音は邪魔っけなのね。
 垂れ流されるままに視聴してたんじゃ、あおられるでしょ。
 てか、あおってるし。
 だもんだから、すり込まれやすくもなる。
 特に、あたしみたいなひとりぼっちは、あっけなくやられる。
 議論する相手がいないもので。
 だからせめて音を消しておくと、ちょっと距離がたもてる気がしてね。
 朝はだいたいがワイドショーばっかっす。
 それはいい、それはいい。
 けど、20日のワイドショーにはさすがに驚いたよ。
 そんなあたしが思わずヴォリュームをあげちゃったくらいさ。


 なんでも、米国の新大統領オバマの演説を収録したCDが、バカ売れなんだそうな。
 わが国で。
 で、それをこよなく愛用している人々が紹介されていて。
 たとえば主婦。
 日々家事をこなしながら、聴いていると。
 会社員。
 通勤がてら、MP3に落としたので、繰り返し堪能していると。
 極めつけは僧侶だ。
 説法に、オバマ演説を引用していると。


 酔ってると。
 虜だと。


 その理由も、そこにあるポジティヴ・シンキングに励まされるだとか、
 演説のリズム感がどうのとか、
 英語の構文のお手本だとか、
 はてはお釈迦様の考えに通じるだとか、実に様々。
 で、思った。
 なんだろか。この距離感の喪失ぶりはと。
 べたつき加減はと。
 でね、
 演説に熱狂する米国民の一体感が、よろしいとかいう声があったの。
 これは今の日本では、なかなか体験できないぜと。
 とどのつまりが、お仲間にまぜて欲しいと。


 言うのだろう。


 そりゃそうでしょう。
 日本では、そんな国民一致団結を悪弊とみなす空気がありますから。
 んで、その悪例が先の大戦であるとして、戦後ずっとキャンペーンを張ってきましたから。


「個をすりつぶされるな!」


 属すな、属すなと。
 けれど、そういう願望というか、習性は消しがたいものですから。
 なんせ群れがあってこその動物ですから、一体感を渇望する。
 と、なにかのきっかけにそれが噴出してくる。
 やれJリーグブームだ、
 W杯だ、と。


 かわいそな子なんだ。俺たちってば。


 このあたりの熱狂を、野田秀樹はよく劇中で皮肉りますな。
 足並みそろえて国旗を振る大衆を、軍国主義のそれになぞらえたりして。
 『農業少女』だったかな。
 けれどその一方で、敗戦でコロリと米国文化に媚をうった戦後日本人というのも野田は『オイル』で痛烈に皮肉っておりますけどね。
「アメリカ人になれば、国旗のパンツがはけるんだぜっ」
 いいよなぁ〜♪
 日の丸では、そうはいかんよなぁ〜、とね。


 うまいね。


 まあ、テレビが作ったものを真に受けるのも、いい歳こいてどうかと。
 そうつっこまれそうですが。
 つっこんどいてください。
 ガバガバですから。
 だってさ、
 出勤してなにげに新聞を開いたらね、読者からのイラスト投稿のページにオバマなんだ。
 写実的な似顔絵がどーんと。
 どういうことよ。
 いったい何を伝えたいのよ。


 そりゃもう、大変な騒ぎさ。


 あのね、
 いや、別にことさらに反米を強調しようとは思わない。
 オバマ自身には恨みもなければ、いまのところ恩もない。
 ていうか、彼は『新』大統領でしょ。
 肝心なのはこれからでしょ。
 しかも日本の権力者ではないのでしょ。
 我ら友好国の国民としては、
 ようするに隣町としては「お手並み拝見」と、ほどよい距離をたもちつつ歓迎するのが節度というものじゃないのかね。
 べたべたせずに。
 そもそもが、あたしたちにゃ投票権がないのだ。
 なのに支持も不支持もないもんだ。まったく。
 どうすか。
 なんかね、
 もうね、
 自分で自分たちが可愛そうになっちゃってね。
 よしよし、と。
 解放軍なのねと。
 心の宗主国なのねと。
 国民精神からして、メイドしちゃってんだな。


 それは、ゴスペルに精神の居場所を求めちゃうニッポンジンなんかを見てても感じるのですがね。
 英語のベシャリ芸を堪能したいのなら、いっそあたしゃエディ・マーフィーのトーク・ライヴ『ライヴ! ライヴ! ライヴ!』だとか『RAW』を観るね。
 聴衆との一体感とコール・アンド・レスポンスならB.B.キングの『ライヴ・アット・リーガル』とか、ジェームス・ブラウンで決まりでしょ。


 え?
 問題が違うって?
 いいんです。
 それくらい距離を置いて静観するべきなんです。
 そういやチベット、どうなったんだろ、とね。
 

 てかね、
 落語の方が、よっぽど深いけどなあ。
 あ。
 隔週刊ではじまった小学館の『落語』。
 今号は名人志ん生ですな。
 あたしにとっては志ん生の『火焔太鼓』のほうが数倍元気のでる音源だよ。
 このオハコ中のオハコに『変り目』、それに『唐茄子屋政談』まで入って1,190円だっていうんだから。あーた。
 こういうところから入ると、いいですよ。
 でもってお隣の熱狂は、落語式の思考で受け流せと。


 あらよっと。




 ☾☀闇生☆☽


 ちなみに、テレビ。
 CMでずっと気になっているのが、ヤクルト ジョアの深津絵里
 もう、ゆるしてやってくれないか。
 企画とキャスティングのズレがね。
 とりわけあのはしゃぎっぷりには、無理があるって。