下唇の先端に、にきびである。
忽然とあらわれた。
なにもそんなやっかいな箇所に、とも思うが。
思ったってしょうがない。
できちゃったんだから。
遠めに見ると、ご飯粒をつけている、こまったさんである。
中学のころ、にきび占いというのがあって。
記憶の底をさらって、思い出してみるに、口の下のにきびは『想われニキビ』だという。
ふう〜ん。
あたしの現状で、そうきたか。
へ〜え。
どう自意識を過剰にターボしてみても、気配すらないというのにだ。
でも、そんなはずはないと、さらに自意識を妄想のレベルにまで引き上げてみた。
それでも、接点のかけらすらないのだから、ねえ。
ないものは、ない。
いや、
いたぞ。
じっとこのあたしを見つめ続けているやつが。
たったひとり。
かろうじて。
それは壊れかけのブラウン管テレビの上。
二頭身の勝新、座頭市のフィギアであーる。
こいつだけは、あたしを見捨てなかったねえ。
あんまなのに、見捨てないんだ。
いやいや、もうひとりいる。
若山富三郎の、これもやっぱ二頭身の子連れ狼。
勝新の兄である。
こっちはビデオデッキの端で薙刀を抱え、乳母車の大五郎と、じっと周囲を警戒しつつあたしを睨みすえているのであーる。
おっさんばっかじゃねーか。
☾☀闇生☆☽
てか、人形だし。