壁の言の葉

unlucky hero your key

 地上波でトム・ハンクス主演の『ターミナル』が放映されていた。
 実話をもとにつくられたということ以外、べつに興味もなく。
 なんとはなしに眺めていた。
 ニューヨークに観光にきた外国人。
 そのチェックインのまえに、母国でクーデターが勃発。
 祖国は内乱状態となり、彼は国籍を失う。
 アメリカは彼の祖国と国交がなくビザを発給できず、よって入国が許されない。
 かといって帰るにも便がない。
 彼は飛行場のなかに足止めをくらうはめになる。
 とはいっても食っていかなければと、彼は飛行場内の仕事を手伝って、支持者を増やしていくのだが…。
 そんなあらすじだったと思う。
 問題は、彼がアメリカに来た理由だ。
 物語の後半でそれが明らかにされるのだが、これがまた泣かすのだ。
 父との約束だという。


 ジャズの名だたる巨人たちが一堂に会したことがあって。
 ジャズファンの父は、その記念すべき日の写真を宝物にしていて。
 その全員からサインをもらおうと、当人達に手紙を送ってはそのサインを集めていた。
 カウント・ベイシーディジー・ガレスピーセロニアス・モンク…。
 しかしその中でただひとりだけ、サインをもらい損ねたまま父は他界してしまった。
 トム・ハンクスの目的は、父の夢を叶えるために、その最後のジャズ・ミュージシャンのサインをもらうことだという。
 思わずうなったのが、その最後のひとりがベニー・ゴルソンだということ。
 渋い、その人選。
 テナーサックスの名プレイヤーだが、ハード・バップ期の名曲を量産した作曲家、兼編曲家としての役割のほうが、重要で。(アート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズの黄金期を支えた。)
 映画のつくりがイージーなだけにね、あたしゃびっくらこいたのだ。
 なんせ飛行場の支配人が、出世と保身にばかりかまけている典型的な悪役で。んでもって、美女CAとの恋もあったりして。トムの一途な行動に、周囲が次第に心を開いて団結していくところとか。そのどれもが可もなく不可もなく、お行儀のよい幕の内弁当スタイル。
 だもんだからベニー・ゴルソンのくだりには、棚ボタな歓びがあったのだ。
 なんせ本人の演奏シーンまで、あるのだから。(チラッとだけだが)


 映画の感想としては、上記した幕の内弁当が妥当かな。
 それより、これの元となった実話の顛末の方が知りたいなと。
 加えれば、国籍を解かれる、または失うとはどういうことか。それを考えるきっかけにもなるかな、とか。




 そんなとこっす。


 ☾☀闇生☆☽