壁の言の葉

unlucky hero your key


 潰されて、
 壊されて、
 轢かれて、
 挽かれて、粉になって、
 風と消えていきます。
 蝉の死骸。


 これから盆踊りの季節でしょうか。
 太鼓の練習が、ふいにそんな風にのって聞こえてきたりして。
 お祭りのたびに思うのですが、東京音頭とかを大音量でぶちまけるのって、どうなんすか。
 実家なんか東京ではないのに、やってましたもん。「ちょいと東京音頭、よいよい♪」って。
 よくないし。
 いや関東を十把一絡げに東京音頭にしてしまうっていうその強引さはまだしも、なによりまずいのはスピーカーなのだ。
 どーにも、こーにも、お祭り気分にはなれんのだな、あれ。
 アジられてるみたいで。
 でもって場内整理のアナウンスとかもね。あれでやるでしょ。がーがーと。
 仕方ないんでしょうけれど。
 雰囲気ぶち壊しでございましょ。
 いま住んでいる近所のなんて、祭りに関係ないド演歌がふいに炸裂するのですわ。


 はあ゛〜〜〜〜〜っ♪


 でね、おそらくは、集まった子供たちにもあきられないようにと、心配りをしているのでしょう。
 かわりばんこにアニメの音頭がながされるんだ。
「めちゃんこ、めちゃんこ、めっちゃんこ〜♪」
 甲高くはしゃいだアニメ声がね、天も割れよとばかりに拡声器から轟くのですわ。


「ほよよで、ほよよで、ほよよでほいぃっっ!」


 つって。怖いっつの。
 なんかセリフっぽいやりとりも聞こえるし。
 あたしゃその現場に行ったことはない。
 けれど、そのシラケ具合は、おおよそわかるのだ。
 なんせ、なにかというとアナウンスが、
「みなさん踊りの輪に入ってください」
 と強いる。
 しかも、おそらくは中学生くらいの女の子が、大人に言わされてる感まるだしのトーンでもって、それを連呼するのですわ。ええ。
 拡声器で。
 もおね、
 聞くに堪えないの。
 なんとかならんのかな。
 せめて、
 せめてね、
 生演奏にするとかさ。
 鬼太鼓座みたいの呼んでやったら、かっちょいいよ。きっと。
 東京音頭ではもはや、大人だって踊れないでしょ。
 だからといってテクノイヴェントにしたら、世代間の壁をぶち壊してよしみを深めるという、古き良き横町のお祭り感は失せてしまうけれど。
 

 ニューオリンズファンクみたいな、
 あるいはボ・ディドリーみたいなのなら、みんな踊れると思うのだ。
 細野晴臣の『蝶蝶さん』では、踊れないかな。
 そのまえに演奏が難しいか。
 H.I.S.(細野+清志郎+坂本冬実)の『幸せハッピー』なんかどうだろか。
 音頭っぽい。
 歌詞も、おめでたいし。
 

 伝統とか慣習というものは、常に変わり続けるからこそ、変わらずにあるもので。
 回転するコマのように。
 川の流れのように
 ぶっ壊すのではなく、新陳代謝のようにね。



「きのうまでのあの涙 いったいなんだったんだ
 あの暗い人生は いったいなんなんだ
 幸せハッピー それこそがすべて…」
 SHIAWASE HAPPYより


 ☾☀闇生☆☽