壁の言の葉

unlucky hero your key


 
 綱渡りのコツは、前方遠くの一点を観ることにある。
 すれば、不安定な足元が鎮まってくるもので。
 裏返せば、足元が鎮まるから、周囲が観えるようになるとも言える。
 あるいは、自転車でもそうだろう。
 子供の頃、うまく乗れるようになるまではハンドルばかりに気がいって、まるで前が見えていなかった。

 
 八王子の書店員殺傷といい、
 アキバのといい、
 今回の中学の担任への『復讐』といい、無差別殺傷をやらかす連中はみな、安定性を欠く環境にいるものばかりだ。
 フリーターとか、派遣とか。
 たしかに、現在の安定なくして、未来へと目を向けることは難しいわけで。
 なにかしらの夢(目標)を持ってそこへ飛び込んだのならばともかく、「とりあえず」だとすれば必然的に、視野は狭くなるだろう。
 そう、綱渡りのように。
 足元ばかりに気を取られていると、不安定になるばかりだし、そうなればますます視覚は足元に固執する。
 『見』てしまう。
 むろん、己の不遇を環境や他人のせいにするその「お客様化」した態度は、責められるべきだろう。
 てか、責めよう。
 そしてそれがゆえに、そういう環境に吸い寄せられる面も、ともすれば、あるのかもしれないのだし。
 けれどね、
 咲こうが、腐ろうが、てめえの人生なのだ。
 うん。
 なら、てめえで面白くするしかねえんだっつの。
 ソファにでんとあぐらをかいて、あれが足りない、これが遅いだのと「お客様」になっていてもしょうがない。
 ダダをこねたって何もはじまらないのであーる。


 マグロではいかんのよ。マグロでは。


 人生という名のちっちゃな店の、そこの店主は自分なのだから。
 店主がクレーマーになったところで、誰ももてなしてはくれないのだ。
 むしろ客人を招待して、愉しませるくらいでないとね。
 貧しいなら貧しいなりに、ありあわせでやりくりしてさ。
 まずは、その日暮らしではなく。
 かといって遠すぎる未来の、途方もない願望でもなく。
 ちょいとだけ先の一点を目標に、歩いてみようか。
 

 と、
 ひとりぽっちの、しがないエロDVD屋が言っても説得力がないのだが。
 自戒を込めて。





 ☾☀闇生☆☽


 良いサッカー選手というものも、上体が起きて、周囲を『観』ているもので。