壁の言の葉

unlucky hero your key


 ついでにこんなのも記しておこうっと。
 とある真昼。
 山手線に乗っていた。
 座席では、メタボなおっさんが大いびきで眠りこけていた。
 新宿につくと、
 観光まるだしの外国人の団体さん。賑やかに乗り込んできて。
 モンゴルとか、そんな同じアジア系の風情である。
 手に手にツアーガイドを持っているところから、きっと初めての日本なのだろう。
 そして、おそらく、日本語はしゃべれない。
 がやがやと母国語でおしゃべりをしている。

 
 と、
 おっさん、ふいに目を覚ました。
 今にも電車は発車しようというところだ。
 あわててきょろきょろと窓の外を見て、現在地を知ろうとするが。
 うまくそれを示す看板が見当たらない。
 まあ、よくある光景ですな。
 するとどうだ、その団体さんが一斉にこう言ったのだ。


「シンジュク! シンジュク!」


 おかげでおっさん、無事に下車できた。
 そうなのだ。
 とっさの優しさに、外国語も、構文も必要ない。
 会話力よりもなによりも先に、こういうの。
 文章にすらなっていないのだもの。
 地名の連呼。
 それでOK。
 あたしを含めた周囲の日本人は非情にも、しかとである。
 おっさん、礼も言わずに駆け降りたが…。
 なんか、教えられたような気持ちがした。


 で、
 思い出した。
 上岡龍太郎がつるべと組んでやっていたトーク番組、パペポ
 そこで上岡が、外国での経験を話していて。
 トイレの個室で用をたしていたところ、ノックをされた。
 さて、使用中であることを伝えるのに、脳は反射的にSVOCをあれこれと組みかえはじめたのだが。
 実際は、
「こほん」
 咳ばらいをするなり、ペーパーをからからいわせるなりすればいいだけのことと気がついた。
 日本でだって、
「使用中で〜す」
「いま、がんばってま〜す」
「ワレ、ココニアリ」
 だなんてこたえない。


 仮にこのシチュエーションで、
「シンジュク」
 とやっても、間違ってはいるが、伝わる。
「風の谷」
 でもきっと。


 
 海外旅行を愉しむ日本人たちは、現地でちゃんと振るまえているのだろうか。
「シンジュク」
 と叫んであげた、あの団体さんのように。



 ☾☀闇生☆☽