壁の言の葉

unlucky hero your key

 なんだかんだ鼻かんだ。
 気がつけばうっかりと、松尾スズキの新作舞台の前売りを、取り逃している。


 『女教師は二度抱かれた


 大竹しのぶと組んでのコクーン公演。
 でもってこのタイトルだ。
 観ない手はないだろう。
 と、いきこんでいたのだが。
 ううむ。
 やっちまった。


 前回の『ドブの輝き』を降板して以来だから、松尾の本格的復活といっていいのではないだろうか。
 なのにそれを逃すんだ。
 俺は。


 思えば『ドブ〜』のとき、この闇生の席は女子に完全包囲されていて。
 しかも隣はどう見ても中学生っぽい、きちんと合わせた膝のうえにハンカチを握った手をのせて『拝見』している、演劇少女まるだしの子で。見学って感じで。
 そのつやつやショートの黒髪が、どうにもこうにも際立っていて。
 おっさんにはまぶしいわけで。
 舞台では、もっこりビキニの杉村蝉之介と、ワンピ水着で半ケツはみ出した池津祥子が、
「俺たち親友だから、Bまではぜ〜んぜん平気」
「Bまでは、親友だよね」
 などと互いの股間を、すりすりすりすり。
 そりゃあもう、水着の化繊の布地の質までわかりそうなくらいに、


 すりすりすりすり、


 音たてて、立ったままこすりつけ合っているという。
 でもって、
「キスしても、ぜ〜んぜん、感情ないし」
 とまた、


 ぴちゃ、にちゅ、ちゅぱっぱ、


 でーぷきすをかますもんだから、
 しかも、
 静まり返ったなか、異様に長くやるものだから、このおっさんたら、


「はっ」


 腹式呼吸のお手本のような笑いを一発、あげてしまったのである。
 阿部サダヲ目当ての黄色い声援の中、その一発は野太く、紅一点ならぬ、どどめいろ一点な笑いで、すまん。
 一笑の不覚で、すまん。
 女子中学生は、ぴくりとも反応していないぞ。
 で、すまん。
 えらいもんで、髪の毛ひとつ揺れていなかった。
 

 て状況がまた、おかしくて、もお。
 大変だったのだ。
 当日券目当てに並ぼうか。
 この歳では、目立つしなぁ。




 ☾☀闇生☆☽