壁の言の葉

unlucky hero your key


 遅刻してしまった。
 不覚にも。
 闇生、普段から不測の事態に備えて、余裕をもって家を出ている。
 ひと駅手前から歩いても、二十分は早く到着するように。そうやって、開店前にのうのうとう○こなどを垂れるゆとりを、常にリザーブしておるのだ。
 どうだ。
 なぜなら、商売に言い訳は通用しないからで。
 電車が遅れたから、といってみたところで、お客さんには関係がないのだし。
 ラーメン屋のオヤジに「このスープ徹夜で作ったんです」と言われたところで、不味いものは不味いように。開店時間をすぎても店が開いてなければ、店にはそういう印象が否応なく付いてしまう。
 であるにもかかわらず、遅刻よ。


 三分。


 すまぬ。
 こっそりと愚痴らせていただくならばだ、たかだか雨が降ったくらいで、どうしてこうも遅れるのかね。
 電車。
 んで、なんでまたあんなに混雑するのよ。
 彼らは晴れた日にはどうしているのよ。
 てか、そういうときに限って、乗り換えた先のことごとくが、やれ信号火災だ、やれ故障だ、やれ人身事故だと。遅延の同時多発ときたもんだ。
 ちょこざいな。
 おかげで今日はう○こもできゃしない。
 コンビニで買い物をする時間もありゃしない。
 そんな朝に限って、握り飯をつくってこないのだな、俺ってば。
 まったく、もお。
 毎朝飯を一合だけ炊いている。
 その半分を朝食に、残りを昼の握り飯として持参しているのに。
 仕方ない。『自分への罰』として、今日は昼飯抜きと決めた。
 ざまみろだ。
 これは『自分へのご褒美』風潮への反旗であると、断固そう表明する次第の所存なのであーる。


 ふ。


 ともかく、そういうときってつい苛々してしまいますよね。
 ぎゅう詰めの電車であるからして、本も読めないし。
 お詫びと事情説明のアナウンスで騒々しいし。
 密着した女の人から誤解をうけんようにと、万歳しつづけなきゃならんし。
 そりゃ音楽に逃げるわさ。
 逃げたよ。
 万歳エスケープと呼んでくれ。
 ここはひとつ、なるだけ能天気で、しかもストレスを打ち消してくれる激しいのがいいぞと。
 となればRadioHeadなんてもってのほか。
 この万歳の身分をゆだねるには、ちょっとマジすぎるし。
 まるでガチンコのストリート・ファイトだもの。
 この場に欲しいのはプロレス。それもド派手なアメリカン・プロレスだ。
 カモン、ベイベッでOKな。
 セックス、ドラッグ、ロッケンローだ。
 ガンズだ、エアロだ、モトリークルーだ。
 MR.BIGだ、
 VAN HALENだ。
 そんなおとぎの国ならば、こんな聴き手の万歳でも浮かばれようというものだ。


 そう思いたち、ぎゅう詰めのなか、果敢にもバッグのi-PODに手を伸ばしてみた。
 プレイリストの『pure-rock』を探す。
 頼むぜ、ガスのアニキ。
 とかなんとかやってみたが、いかんせんモニターが見えん。体勢的に無理。
 となれば指先の勘だけに頼るしかなく、見当をつけて「南無さんっ」とプレイしてみた。
 拾ったのはプレイリスト『daijobu』(大丈夫)だった。大丈夫じゃないときにすがるのが丸出しのネーミングであるのだが。
 のっけからFISHMANSだ。
 いいんですよ。
 大好きですよ。
 けどね、処方をあやまると、逆効果でね。

 
「ぼくは いつまでも 何も できないだろう」(IN THE FLIGHT)


  
 今日は、雨の音でも聴いていようっと。 


 
 ☾☀闇生☆☽


 追伸。
 昨日の記事の『何か』。
 あれはひょっとすると『堕落論』で坂口安吾が求めたものなのかも、とふと。


 二伸。
 聖火リレー
 ああまでして続行する意味、あるのかな。
 そもそもナチのプロパガンダとして始まったならいだそうだ。
 さもありなん。
 政治とスポーツは別だ、の論調もまた政治的に利用されるのだし。
 国家とその文化が、『功罪含めて』分離しがたい関係であるように。政治とスポーツが別だったことって、はたしてどれくらいあるのだろうか。
 にしても、チベットの民を売ってまでやりたいものなのだろうか。あのランナーってものは。
 であるとすれば、ドラッグだな。
 メダリストが踏みつける表彰台は、赤い僧衣でできているに違いない。